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2010/12/23

sengoku38、「細かいことはもうええやん」 アカウント名は「仙谷(由人)官房長官でもあるし、戦国時代の戦国かもしれない」

中国漁船・尖閣領海内接触:ビデオ流出 保安官停職 海保長官、歯切れ悪く
 ◇「まだ詳しく話せない」 元航海士「予定通り」

 初めて海上保安庁長官が懲戒処分を受けるなど、24人の大量処分につながった中国漁船衝突を巡るビデオ流出事件。映像は海保職員なら誰でも見られる庁内ネットワークの“掲示板”にさらされ、「誰でもみてくださいと張り出すようなもの」(内部調査担当者)だった。鈴木久泰長官は22日夜の会見で「保安庁全体として問題の責任を取ると考えている」と小声で述べた。海保が受けたダメージは大きい。一方、当事者の一色正春・元主任航海士(43)は毎日新聞の取材に「予定通りじゃないですか」と淡々と話した。【本多健、石原聖】



 この問題を巡って参院で問責決議が可決された馬淵澄夫国土交通相は22日夜の緊急会見で「事実解明と再発防止が責務」などと強気の姿勢をつらぬいた。だが、一色元航海士への思いを尋ねられると、しばし考え「本人が大変申し訳ないと思っているという話を聞き、残念だったなと思っています」と語るにとどめた。給与の一部(10分の1を1カ月)を返納するという自身の処分については、かつての情報漏えい事件の事例を参考に「自ら決した」と述べた。

 更迭説もあった海上保安庁の鈴木長官の処遇は「事実の解明、再発防止が我々の責務と一貫して申し上げてきた。ご指摘は当たらない」と続投させる意向を強調した。

 一方、別に会見した鈴木長官は終始小声で疲れ切った様子。一色元航海士の処分について「公にしてはいけない情報を公にした」と理由を述べたが、調査結果について再三質問されても「まだ検察の捜査中で詳しくは話せない」と歯切れの悪い答弁に終始した。

 内部調査担当者によると、第11管区海上保安本部(那覇市)から海上保安大学校(広島県呉市)へ渡った映像は当初、庁内ネットで限定された職員同士がやりとりする共有フォルダーが使われるはずだった。だが、11管と海保大の担当者はパブリックフォルダーを使った理由を「共有フォルダーではうまく渡せなかったため」と説明。パスワード設定もされておらず、双方が「相手が削除すると思っていた」という。

 ずさんさが生んだ流出。国交相のリーダーシップが問われ、海上警察権のあり方など組織改革も越年の課題となった。


 ◇「仕事も住む所も考えないと」

 映像流出事件の捜査は、ユーチューブに投稿された映像の発信元が神戸市内の漫画喫茶と明らかになった11月10日、大きく動き出した。一色正春・元主任航海士が乗船中の巡視艇内で上司に「自分がやりました」と申告したためだ。警視庁捜査1課などの任意聴取に流出は認めたが、供述内容が変わったり、一部は拒むなどし、捜査員らはその言動に振り回された。捜査幹部によると「細かいことはもうええやん」と言ってきちんと説明しないこともあったという。

 一色元航海士は22日夕、第5管区海上保安本部(神戸市)で処分書を受け取った後、上司に「申し訳ありませんでした」と謝罪した。その後自宅に戻り、毎日新聞の取材に「仕事も住む所も、これから考えないといけない」とつぶやいた。

 今回の事件では、一色元航海士は上司に申告する前、読売テレビ(大阪市)の取材に応じていた。動機を「誰もやってくれないなら自分でやるしかないと思った」と話した。

 投稿名を「sengoku38」とした理由は「仙谷(由人)官房長官でもあるし、戦国時代の戦国かもしれない」と説明していた。しかし、捜査当局の聴取には説明しなかった。

 11月下旬になり米国のテレビ局「CNN」東京支局に映像を郵送したことを新たに供述。「CNNで放映されなかったのでネットへの投稿を決意した」とも話したという。

 社会の注目を浴びることを求めるようでいながら矛盾する言動が見え隠れする一色元航海士。捜査幹部は「思った以上に反響が大きく、慌てて証拠を隠滅したのではないか」と話す。【山本太一、内橋寿明、小泉大士】


 ◇仙谷官房長官「証拠の公表、許されない」
 元航海士の書類送検について、仙谷由人官房長官は22日の会見で「司法警察員が事件の証拠を公表するのは許されない。被疑者が判明次第、逮捕すべきで、現時点でもそう考えている」と述べた。一方で「捜査機関としての常識が非常に弱い状態だった」と海保の情報管理の甘さを批判した。

 菅直人首相は22日夜、官邸で記者団に「しっかりした一つの処分が行われたと受け止めている」と述べた。【野口武則】

毎日新聞 2010年12月23日 東京朝刊