ページ

2007/12/24

BDA(Banco Delta Asia) 北朝鮮資金凍結 

バンコ・デルタ・アジア(BDA)の北朝鮮資金

 北朝鮮は貿易決済や外貨取引で中国の特別行政区マカオにある中規模銀行バンコ・デルタ・アジア(BDA)を重用してきた。しかし、北朝鮮の米ドル札偽造疑惑を追及していた米財務省は2005年9月、BDAを「資金洗浄(マネーロンダリング)に関与した疑いの強い金融機関」に指定した。

米金融機関との取引が事実上できなくなったBDAには取り付け騒ぎも起き、マカオ当局は混乱回避のため、問題の発端となったBDA内の北朝鮮関連52口座2500万ドルを凍結した。ほかの外国金融機関も北朝鮮との取引を避け、北朝鮮指導部の台所事情を直撃する事態になった。

北朝鮮は「米国の敵視政策による金融制裁だ」として極度に反発し、同月に北朝鮮の核問題をめぐる6者(6カ国)協議で核放棄などを目標にした共同声明が採択されたが、声明履行の動きも止まった。

07年1月のベルリンでの米朝直接協議を経て6者協議は2月、北朝鮮核施設の60日以内の稼働停止・封印を含む合意に達したものの、北朝鮮は口座凍結が解除されない限り停止・封印に応じないとの態度に固執した。北朝鮮は、凍結資金を取り戻すこと以上に、米国が北朝鮮敵視の姿勢を変えて本当に関係正常化に取り組む意思があるのかの「踏み絵」としてBDA問題をとらえていた。

米財務省は07年3月14日、愛国者法に基づいてBDAに対する「資金洗浄の疑いが強い金融機関」の指定を確定する決定を出し、米金融機関にBDAとの取引を禁じた(制裁発動は4月)。
また北朝鮮関係者による米ドル札偽造や麻薬密輸、高級外国タバコ偽造などへの関与を指摘した。一方で米政府は3月19日、米朝間でBDA北朝鮮関連資金の全額早期返還に合意したと発表し、「北朝鮮は資金を人道的、教育的な目的など北朝鮮の人民のために使うと約束した」と語った。

米財務省とマカオ当局は4月、口座凍結の解除を明らかにした。米国が北朝鮮の核放棄に向けた6者合意を前に動かすことを迫られた結果である。だが財務省制裁のため、米民間銀行を通じた北朝鮮への送金はできず、中国銀行にも拒否された。

最終的には米ニューヨーク連邦準備銀行とロシア中央銀行を経由してロシア・ハバロフスクにある極東商業銀行の朝鮮貿易銀行口座に送る形をとったとされ、北朝鮮外務省は6月26日、「我々の要求通り送金され、問題は解決した」と語った。

米公的機関自らが制裁を破ってまで、核問題の進展を優先させたわけだ。これを受けて北朝鮮は7月、核施設の停止・封印に着手した。ただ、北朝鮮が国際金融システムに完全復帰したとは全く言えず、米朝間の金融実務協議は続いている。
( 小菅幸一 朝日新聞記者 )