◇守秘義務違反容疑 ◇長官減給、24人処分
沖縄・尖閣諸島沖の中国漁船衝突を巡るビデオ映像流出事件で、海上保安庁は22日、第5管区海上保安本部の神戸海上保安部に所属する一色正春・元主任航海士(43)を停職12カ月の懲戒処分にした。一色元航海士は同日、依願退職した。処分対象は鈴木久泰長官ら計24人に上った。長官の懲戒処分は初めて。一方、警視庁捜査1課は同日、一色元航海士を国家公務員法(守秘義務)違反容疑で東京地検に書類送検した。
懲戒処分は6人で、一色元航海士のほか、監督責任を問われた鈴木長官が減給1カ月(10分の1)、監督責任や映像の不適切な扱いなどで城野功次長ら4人が戒告された。このほか本庁、海上保安大学校、第5、第11管区海上保安本部の幹部や職員計18人が訓告、厳重注意の処分を受けた。また、馬淵澄夫国土交通相は給与1カ月(10分の1)を自主返納すると明らかにした。
一色元航海士の処分理由について、海保は(1)海上警察機関たる組織の規律に違反した(2)刑事訴訟法で公にしてはならない証拠物と同内容を含む映像を漏えいさせ、社会に影響を及ぼした(3)ネットで短時間に流れ、回収不能に陥った--と説明。一方で、映像は海上保安大学校のパブリックフォルダーと呼ばれる海保職員なら誰でも見られる場所に5日間掲載され入手可能な状態だったことや、金銭的利益を得ていないこと、17日に辞職願を提出していることを考慮し、免職を避けた。
海保の内部調査で、処分された職員を含め計16人が衝突映像を保存しており、計36人が映像を見ていたことが判明したという。
警視庁の送検容疑は、10月中~下旬、乗船していた巡視艇「うらなみ」の共用パソコンにあった映像をUSBメモリーに保存。11月4日午後9時ごろ、神戸市内の漫画喫茶で動画投稿サイト「ユーチューブ」に投稿し、不特定多数の利用者に閲覧可能な状態にして職務上知り得た秘密を漏らしたとしている。
捜査1課の調べに、一色元航海士は「国民が知らない海上での出来事を国民に判断してほしかった。真相を多くの人に知ってもらいたかった」と供述しているという。
一色元航海士が私用USBメモリーで2回、SDカードで1回、映像を保存していたことも新たに分かった。
10月上旬にメモリーを購入。最初に保存した映像はうまく処理できなかったためという。当初は「公用のUSBメモリーで取り込んだ」とも説明したが、その形跡はなかった。
捜査1課幹部は「公務員による事件で悪質性が高く、検察官の処分に委ねる」として、「相当処分」を地検に求めたとみられる。【石原聖、山本太一】
毎日新聞 2010年12月23日 東京朝刊