大王製紙の井川意高(もとたか)前会長(47)が同社の了解を得ずに、子会社から100億円を超える借り入れをしていた問題で、大王製紙の6月30日の取締役会で、前会長への約23億5000万円の貸付金が記載された3月期の有価証券報告書が示されたにもかかわらず、この貸し付けについては説明がなかったことが、同社関係者の話で分かった。
前会長はその後も子会社から多額の借り入れを繰り返しており、融資が膨らむ結果につながったという。
関係者によると、同報告書には、子会社2社から前会長への「短期貸付金」として計23億5000万円が記載されていたが、報告書に関する説明はごく短時間で終了し、貸付金については触れられなかった。取締役会の議長は前会長が務め、報告書は同日中に関東財務局に提出されたという。
報告書には、前会長の父親の高雄氏(74)が代表取締役を務める関連会社への約22億円の貸付金も記載されていたが、実際には、関連会社を迂回(うかい)して前会長に貸し付けられていたという。
(2011年10月19日03時07分 読売新聞)
大王製紙:元会長の巨額借り入れ 監査・取締役、把握せず チェック機能不全
総合製紙大手、大王製紙の井川意高(もとたか)元会長(47)が、複数の子会社から総額80億円以上の個人的借り入れをしていたとして辞任した問題で、本社の取締役会、監査役会といった同社のチェック部門の関係者が「(問題発覚まで)知らなかった」と証言していることが19日、分かった。子会社を統括する「関連事業部」が実態を開示していなかったとみられる。企業統治(ガバナンス)に詳しい弁護士らは「企業統治上の重大な問題だ」と話している。【新宮達、鈴木一也】
毎日新聞の取材に、経理を担当した元役員は「会計を含め、子会社の全てを本社の関連事業部が見ている」と証言。経理部門や経理担当の役員は子会社の会計にほとんど関与しない制度になっており、関連事業部の担当役員は、井川元会長の実弟が務めている。この元役員は「今回の巨額融資も同部で情報が止まっていた可能性がある」と指摘する。
一方、取締役会のチェック機能も働いた形跡がない。本社が今年6月に提出した11年3月期連結決算の有価証券報告書には、子会社から井川元会長への前年度の貸付金23億5000万円が明記されていたにもかかわらず、佐光正義社長は「その時点では問題にならなかった」と話した。
本社内で不透明融資が認識されたのは、内部通報(告発)があった今年9月上旬以降。6月の株主総会を機に退任した前役員も取材に「報告は一切なく、問題を知ったのは、(不祥事の)発表当日だった」という。現職の監査役も「監査役が機能しなかったと言われても仕方がない」と企業統治に問題があったことを認め「子会社が親会社の社長(当時)に貸し付けるなんて、想定していなかった」と強調した。
子会社の情報管理について、民間信用調査機関からは「上場企業でこれほど非開示の企業はない」との声も上がる。井川元会長は、こうした体質を熟知する立場にあり、「複数の子会社から融資を受けることで、発覚を遅らせる意図があったのでは」と指摘する金融関係者もいる。大阪弁護士会の山口利昭弁護士は「内部統制の面から極めて問題だ」と指摘している。
毎日新聞 2011年10月20日 東京朝刊