2011年9月14日 20時54分 更新:9月15日 0時38分
【ウィーン樋口直樹】北朝鮮が国際的な「核の闇市場」から得た技術や情報を基にウラン濃縮活動を行う一方、他国の核開発を支援していた可能性が高いことが、国際原子力機関(IAEA、本部ウィーン)の天野之弥事務局長の報告書で初めて確認された。開会中のIAEA理事会は14日、この報告書を基に協議を行い、北朝鮮の核問題を「国際的な核不拡散体制や平和と安定に対する深刻な脅威」とみなし、「交渉による問題解決の重要性」を改めて表明する議長総括を発表した。
天野事務局長が理事国(35カ国)に配布した非公開の報告書によると、IAEAは、昨年11月に北朝鮮・寧辺のウラン濃縮施設を訪問した米科学者、ヘッカー元ロスアラモス研究所長から聞き取り調査を実施。その結果、ウラン濃縮用遠心分離機の配置や分離機の外形などが、「核の闇市場」を通じて他国に広まったデザインと概して一致していることが判明したという。
報告書は「IAEAが得た情報は(北朝鮮の)ウラン濃縮に必要な、いくつかの技術や情報が、秘密の供給ネットワーク(闇市場)を通じて取得されたことを示している」と結論づけた。
報告書はまた、03年12月に大量破壊兵器開発計画の放棄を宣言したリビアについて、闇市場から00~01年に入手したとされる六フッ化ウラン入りのシリンダー(円筒状容器)3個を分析した結果、いずれもリビアに持ち込まれる前に北朝鮮にあったことも確認した。うち1個の六フッ化ウランは、北朝鮮で作られた可能性が極めて高いという。六フッ化ウランを濃縮すると、核燃料や核兵器の原料になる。
報告書はさらに、07年にイスラエル軍の空爆で破壊されたシリア初の原子炉とみられる施設が、北朝鮮の協力で建設中だったとみられることにも言及。北朝鮮が闇市場から核関連技術などを入手する一方、他国への核拡散に関与している可能性も示した。
天野事務局長は今月8日の毎日新聞との会見で、報告書で言及した「秘密の供給ネットワーク」について、パキスタンの「核開発の父」と呼ばれるカーン博士を中心とする、いわゆる「カーン・ネットワーク(核の闇市場)」を指したものだと言明。ただ、北朝鮮の核関連技術については「かなり高い独自技術を持っている。一部を外から持ってきたことは間違いないと思うが、すべてではないと思う」と話した。
カーン・ネットワークからは北朝鮮やリビアだけでなく、イランにもウラン濃縮技術が流出したと言われている。専門家の間では北朝鮮とイランの核開発協力を疑う声もあるが、天野事務局長は「この分野(核開発)では確たるものはない。だが、ミサイル(開発分野での協力)についてはもっと強い疑いがある」と指摘した。
北朝鮮の核開発に批判相次ぐ IAEA理事会「深刻な脅威」
2011/9/15 10:25
【ウィーン=藤田剛】国際原子力機関(IAEA)の定例理事会は14日、北朝鮮の核開発問題を討議した。昨年11月に明らかになった北朝鮮のウラン濃縮活動と軽水炉の建設について、各国から「国連安保理決議や6カ国協議の共同声明に違反している」との批判が相次いだ。日本は「IAEAとして北朝鮮に強固なメッセージを出すべきだ」と訴え、19日に開幕するIAEA総会で核開発の停止を求める決議を採択するよう主張した。
IAEAの天野之弥事務局長は日米欧など35の理事国に対し、北朝鮮の核開発に関する初の包括的報告書を配布。報告書はヘッカー・米スタンフォード大学教授が北西部の寧辺(ニョンビョン)でウラン濃縮施設などを確認したことを「非常に深刻な問題」と指摘した。
報告書はこのほか、北朝鮮がウラン濃縮に必要な技術や情報を秘密のネットワークである「核の闇市場」から入手したと分析。さらに北朝鮮がこうした技術を活用してかつてシリアの原子炉建設を支援し、リビアに核兵器の原料になる六フッ化ウランを提供した可能性に言及した。
これを受けて14日の定例理事会では、欧米諸国から「北朝鮮主導の拡散」を強く懸念する声が浮上。理事会は「北朝鮮の核問題は核不拡散体制と世界の平和と安定に対する深刻な脅威」とする議長総括をまとめ、結束を見せた。
ただ、一部の国は「対話の継続による解決」を主張しており、151カ国が参加するIAEA総会において決議が全会一致で採択されるかは不透明だ。
ヘッカー教授は元ロスアラモス国立研究所長で、寧辺のウラン濃縮施設に約2千台の遠心分離機が設置されていたと証言。「1~2発の核爆弾を製造できる40キロの高濃縮ウランを1年で生産できる」と指摘した。さらに遠心分離機が別の場所にもある可能性を示した。