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2011/06/07

感染源の疑いがあるドイツ・ニーダーザクセン州産モヤシのサンプル40件を検査したが、うち23件からは菌が検出されなかった

モヤシを感染源と特定できず…独州政府
【ベルリン=三好範英】ドイツを中心に欧州で広がる腸管出血性大腸菌O104の感染問題で、州政府は6日、感染源の疑いがある同州産モヤシのサンプル40件を検査したが、うち23件からは菌が検出されなかったと発表した。


 州政府は5日、同州産モヤシが感染源である疑いが強いと発表していた。州政府は6日、「結論を出すには時間がかかる」とし、モヤシを感染源と特定できないとの見方を明らかにした。

(2011年6月7日00時47分 読売新聞)





クローズアップ2011:大腸菌O104、欧州混乱 自由な越境、裏目に
 ドイツを中心に広がる腸管出血性大腸菌「O104」の感染者は5日、感染が確認された5月中旬以来、米国を含む13カ国で1500人を超え、死者は22人となった。わずか3週間で近隣諸国などに拡大した背景には、欧州統合が進んで「国境の壁」が低くなったという事情もある。ドイツ北部ニーダーザクセン州政府は5日、「州内産のもやしが感染源の可能性」と発表したが、検査で大腸菌は検出されなかった。一時はスペイン産キュウリが疑われて風評被害を生むなど、外交問題にも発展しかねない状況を生んだ。【ベルリン篠田航一】

 ◆独北部で急増

 ドイツでは5月中旬以降、出血性の下痢などを訴えるO104の感染者がハンブルクなど主に北部で急増。5月27日時点で感染者は約300人(死者2人)に達し、国立ロベルト・コッホ研究所は「O104がこれほど急拡大するのは極めて異例だ」と指摘した。

 欧州で国境通過時のパスポート審査が不要になる「シェンゲン協定」の加盟国は、07年にそれまでの15カ国から24カ国に一気に増加した。欧州連合(EU)域内は単一市場として原則、商品の移動も自由なため、「感染者」も「感染源の農産物」も、ともに短期間で国境を越えてしまうのが実情だ。欧州特有の利便性が裏目に出たケースと言える。

 ◆感染源迷走

 感染源を巡る調査は迷走した。ハンブルク保健当局は5月26日、「スペイン産キュウリから病原菌が検出された」と発表したが、同31日に「患者の菌と、キュウリの菌は別物だった」と訂正した。

 だが、ドイツ側は結果的に誤った情報でも即時発表に踏み切った対応を「適切だった」と主張。メルケル首相は2日、スペインのサパテロ首相との電話協議で「ドイツ当局は、市民に迅速に情報を伝える義務がある」と理解を求めた。

 一方、ニーダーザクセン州のもやしについて、アイグナー連邦消費者保護相は6日、検査の結果、もやし40本のうち23本から大腸菌は検出されなかったと発表。さらに調査が必要との見解を示した。

 感染源の特定が迷走する中、一時キュウリが「犯人扱い」されたことで、欧州各地でスペイン産野菜の購入は激減し、風評被害による損失は週2億ユーロ(約236億円)に上る。サパテロ首相はEUに補償措置を求める考えを表明した。スペイン農家の「反ドイツ感情」は収まらず、2日には農家らが東部バレンシアのドイツ領事館前でキュウリやトマトなど約300キロを路上に散乱させる騒ぎがあった。

 ◆テロ発言も

 ドイツでは当初から発生場所を巡る報道が過熱した。約150万人が訪れた5月6~8日の「ハンブルク港祭り」で最初に感染が広がったとする説や、北部リューベックのレストランが発生源とする説が伝えられた。

 一部で「細菌テロでは」とのうわさも広まり、チェコのフクサ農相は「誰かが野菜に毒を盛ることができるなら、テロ攻撃と同じだ」と発言。ドイツ内務省当局者が「テロを示す証拠はない」と否定する一幕もあった。

 ◇強毒性に変異か 日本、検出例なし 食品加熱で予防
 ドイツを中心に流行しているO104は、大規模な集団感染を引き起こしたという記録はほとんどない。日本での検出例もなく、国内外の専門家も注目していなかった。このため、O104は強い毒性を持つように変異した可能性が浮上している。

 大腸菌は約180種類の仲間が存在し、菌の表面にある抗原の型の違いから、Oに続けて1番から通し番号が付けられている。すべてが健康被害をもたらすのではなく、今回のように激しい下痢や溶血性尿毒症症候群(HUS)という腎機能障害などを起こす「腸管出血性大腸菌」は数十種類に限られている。

 よく知られるのが、96年に堺市を中心に3人が死亡した「O157」、今年に入って福井市などの焼き肉店で4人の死者を出した「O111」。これらは通常、家畜の腸内にいるが、ふんから栽培に使われる水に混入するなどして野菜に付着することがある。

 笹川千尋・東京大教授(細菌学)によると、このタイプは「シガ毒素」という毒素を出し、胃酸でも死なない。このため、汚染した食べ物を摂取すると、大腸までたどり着いて増殖する。

 林哲也・宮崎大教授(病原微生物学)は「O104は、別の菌の遺伝子を取り込み、シガ毒素を作るタイプの菌ができ広まったのではないか」と話す。世界保健機関(WHO)は今回の大腸菌を「極めて特異なタイプ」と発表。多くの患者が入院する独ハンブルク・エッペンドルフ大病院は「前例のない遺伝子同士が結合したのではないか」と指摘した。8割のO104と残りの2割の別型の菌が結合した可能性があり、抗生物質も効きにくいという。

 対策はあるのか。大腸菌は75度以上で1分以上さらすと死滅する。食品の加熱という一般的な食中毒対策で防止できる。また、人から人への2次感染は、便から出た菌が口に入ることで起こるので、手洗いの徹底が励行される。【藤野基文、久野華代】

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 ◆O104感染拡大の経過◆

5月中旬  ドイツ・ハンブルクでO104の感染者が確認され、独北部で急増

  26日 独ハンブルク市保健当局が感染源をスペイン産キュウリと発表

  30日 ロシアが独・スペイン産野菜の輸入を禁止

  31日 独保健当局が「患者の菌とキュウリの菌は別物だった」と訂正。スウェーデンで死者を確認、独以外で初の感染死

6月 2日 世界保健機関(WHO)が新種の可能性を指摘。米疾病対策センターが、独から帰国した米国人が感染した可能性を公表。露が野菜の禁輸を欧州連合(EU)全域に拡大

   5日 独ニーダーザクセン州政府が、感染源は州内の農場から出荷されたもやしの可能性が高いと発表

   6日 もやしから菌検出されず

毎日新聞 2011年6月7日 東京朝刊