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2011/05/07

首相に近い閣僚の一人は6日夜、「今回の決断で国民の支持が戻れば、党内も落ち着くのではないか」と語り、倒閣に動いてきた小沢一郎元代表グループも首相を批判しにくくなるとの見方を示した。

退陣論意識、指導力アピール-菅首相=民主内は賛否両論
 菅直人首相は6日、中部電力浜岡原発(静岡県御前崎市)の全原子炉停止を中部電に要請したことを発表した記者会見で、決定は自身の判断と強調した。東日本大震災の復旧・復興や福島第1原発事故への対応の不備を批判され、野党から退陣を迫られている菅首相だけに、指導力をアピールする狙いもあったようだ。

 「首相として、浜岡原発の全原子炉の運転停止を中部電力に要請した」。会見の冒頭、こう発表した菅首相は、同原発の危険性を細かに説明すると「私自身、安全性について意見を聞き、熟慮を重ねた上で、首相として決定した」と、「首相として」を繰り返した。

 実際、東海地震の震源域に立地する同原発の危険性はかねて指摘されており、万が一にも福島に続き同様の事故が起きれば、国の存亡にかかわりかねない。民主党幹部は菅政権の現状を念頭に「クリーンヒットを狙ったものだ」と解説した。

 もっとも、菅首相の後に会見した海江田万里経済産業相が明かしたように、法制度に基づくものではなく、あくまで「要請」。国民の間で原発への不安が高まっていることを踏まえ、中部電側が受け入れざるを得ないと判断したことをうかがわせる。首相は「十分対応できる」と言うものの、電力供給量の低下が中部地域に与える影響は完全には見通せない。

 民主党内からは「勇気ある決断だ」(斎藤勁国対委員長代理)と評価する声がある一方で、「唐突だ。夏場に電力需要が増えるときに心配だ」(中堅)、「求心力を高めようとしているだけではないか」(ベテラン)と疑問の声も相次いだ。

 海江田氏は会見で、今回の決定経緯について、5日に現地を視察した後、首相に進言したと説明した。首相がわずか一日の「熟慮」でこれに飛びついた可能性もあり、「首相の決断」は自らに跳ね返ってくる。(2011/05/06-22:34)

http://www.jiji.com/jc/c?g=pol_30&k=2011050600961





訴訟恐れた首相の保身 反首相勢力には「クセ球」…
2011.5.7 01:09
 菅直人首相が中部電力浜岡原子力発電所の全面停止を唐突に打ち出した。実は原発差し止め訴訟によるダメージを恐れただけのようだが、東京電力福島第1原発事故の対応批判で「菅降ろし」に弾みをつけようとした民主党の鳩山由紀夫前首相や小沢一郎元代表は機先を制せられた。首相の保身術は思わぬ「クセ球」を生むようだ。(加納宏幸、山本雄史)


 「国民のみなさまに重要なお知らせがあります。私は首相として…」

 緊急記者会見でこう切り出した首相はいつになく生気に満ちていた。「首相として」を何度も繰り返し、自らの決断を強調した。

 だが、首相が事務レベルと協議した形跡はない。首相周辺は「会見直前に決めた」と打ち明け、経済産業省幹部も「まったく知らなかった」とこぼした。

 そもそも浜岡原発に関心があったわけではない。2日に福島瑞穂社民党党首から「ぜひ浜岡原発を止めてくださいね」と迫られた際は「ヒャッハッハッ…」と笑ってごまかした。

 だが、首相は同日夕、福島氏から弁護士グループが浜岡原発差し止め訴訟を準備していることを電話で知らされる。「次のターゲットは浜岡原発だ」。やっと気付いた首相は、海江田万里経産相に浜岡視察を命じ原発停止に動き出した。

 一方、反首相勢力は、小佐古敏荘東大教授の内閣官房参与辞任後、原発事故を「菅降ろし」の軸に据えつつあった。

 「水による冷却を続けている限り放射能流出は止めようがない。首相は『時間がかかる』と私の言うやり方にしなかった…」

 鳩山氏は6日、滞在先の北京市内のホテルで記者団に、自らが提案した原発の冷却方式を首相に拒否されたことへの怒りをぶちまけた。首相が「想定外」を連発したことにも「そういう言葉を政治家は使うべきではない。あらゆる状況で国民の命を守るのが政治家の責務だ」と非難した。

 小沢氏も6日に珍しく記者団のぶら下がり取材に応じ、「海に陸に空に地下に放射能を垂れ流している。手をこまねいて済む問題ではない。原発が制御不能に陥っている責任は政治家として重い」と断じた。

 ただ、「訴訟怖さ」からの決断が「けがの功名」となり、小沢氏らは戦略見直しを迫られた。

 首相は6日夜、仙谷由人官房副長官と都内のホテルで中華料理に舌鼓を打った。夜の外食は東日本大震災後初めて。浜岡停止により政府は原発政策の見直しを根底から迫られかねないが、首相がそこまで先を読んだようには見えない。







政府内で十分な検討の形跡なし…浜岡原発停止
 菅首相が6日、中部電力浜岡原子力発電所の全面停止要請という異例の措置に踏み切ったのは、国民の原発に対する不安感を軽減し、東日本大震災対応の不備で失墜した政権の信頼回復につなげる狙いがある。

 ただ、政府内で十分に検討された形跡はなく、支持率低迷に苦しむ政権が反転攻勢のために繰り出した苦肉の策との見方も出ている。

 首相の指示で原発事故対応にあたっている細野豪志首相補佐官は6日夜、首相官邸で記者団に「首相は4月の初めあたりから浜岡原発を非常に意識していた。難しい判断だったが、国民の安全をないがしろにできない。相当、悩んだ上での判断だった」と述べ、停止要請が首相自身の強い意思だったことを明らかにした。

 首相は数週間前から、政府関係者を通じ、浜岡原発を止めた場合に世論がどう反応するかを含め、具体的な影響をひそかに探ってきた。

(2011年5月7日08時07分 読売新聞)





停止要請「英断」「唐突」「党内調整不十分」
 菅首相が中部電力浜岡原子力発電所のすべての原子炉を運転停止する方針を示したことについて、民主党内では「原発に対する国民の不安を意識した、首相の英断だ」(ベテラン議員)と評価する声が上がったが、自民党内では「唐突な発表だ」と戸惑いや反発が広がっており、同党をはじめ、野党は国会で追及する構えだ。

 東京電力福島第一原子力発電所の事故を巡る菅政権の対応は「後手に回った」として世論の評価が低く、民主党内の「菅降ろし」にもつながっている。首相に近い閣僚の一人は6日夜、「今回の決断で国民の支持が戻れば、党内も落ち着くのではないか」と語り、倒閣に動いてきた小沢一郎元代表グループも首相を批判しにくくなるとの見方を示した。

 静岡県選出の民主党の牧野聖修衆院議員は、「素晴らしい決断だ。浜岡原発の地元では、東海地震が浜岡原発の放射能漏れ事故につながるという不安の声が広がっていた。私も海江田経済産業相に、こうした声を届けていたが、それが受け入れられて、本当によかった」と述べた。

 ただ、今回の停止要請を発表直前まで知らなかった小沢グループのある議員は「党内調整が不十分だ。そもそも、なぜ浜岡原発だけなのか、理解に苦しむ」と批判。政調幹部も「日本の原発はダメだという誤ったメッセージを発信することになりかねない」と懸念を示すなど、今回の判断が首相の政権基盤の強化につながるかどうかは微妙だ。

(2011年5月6日21時18分 読売新聞)