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2011/05/03

同課は「店での食中毒と断定すれば、食品衛生法に基づく行政処分をしたうえで公表する。現段階では調査中」と説明するだけだった。

食中毒で男児死亡の公表遅れ、国が県を批判
2011年5月3日
 男児が死亡した事実が明らかになって2日。福井県は2日夜の会見で、福井市渕2丁目の焼き肉店「焼肉酒家えびす福井渕店」で腸管出血性大腸菌「O111」による食中毒が発生し、男児が死亡したことをようやく公式に発表した。重大な事実を伏せ続けた対応を県は会見で「適切だった」と強調したが、国からは批判が出ていた。

 会見した県健康福祉部の小林正明企画幹は「家族から強い要望があり、男児の死亡は公表を控えた」と説明した。県は男児の死亡を先月28日に把握したが、発症した患者が男児のみで他の感染者はおらず、「法律上、どうしても公表しなければならない状況ではなかった。県から積極的に公表すべきだったとは思っていない」と述べた。


 県はこれまで男児の死亡について、食中毒と断定していないことや感染拡大の恐れがないことを理由に、「個人情報を保護する観点からも患者の予後の状態を公表することはできない」(健康増進課)との立場をとってきた。

 事件の一報は先月27日。県は「腸管出血性大腸菌感染症の発生について」と題する広報を出している。食中毒の疑いを調査しているとして、お年寄りや子どもが生肉を食べないよう呼びかける内容だった。

 しかし、この広報は「あくまで感染症法に基づき、県民に注意喚起するための措置」(同課)とする。男児の家族6人は1日、O111感染が陰性と確認された。このため県は「接触者の陰性が確認されており、感染拡大の恐れはない」として、2日夜に会見するまで、報道機関の取材に対しても、男児が死亡したかどうかさえ回答しなかった。

 男児が食事をした先月17日には、367人の客が来店し、原因となったユッケは計138皿も提供されている。なのに同課は「店での食中毒と断定すれば、食品衛生法に基づく行政処分をしたうえで公表する。現段階では調査中」と説明するだけだった。

 国も県の姿勢に疑問を投げかけている。厚生労働省の食中毒被害情報管理室は1日、県医薬食品・衛生課に「男児が亡くなったことなど、出せる情報は公表してはどうか」という提案をしたという。

 だが、医薬食品・衛生課は「感染源が特定されず、食中毒と断定できない以上、『出せる情報』は27日の発表がすべて」との立場を崩さなかった。2日の会見でも小林企画幹は、「(厚労省からの提案は)影響はなかった」と述べただけだった。

 これについて食中毒被害情報管理室の温泉川(ゆのかわ)肇彦室長は「食中毒と断定できなくても、未確定と断ったうえで情報を出すべきではなかったか。富山県の事例との関連も含め、県内の別の患者の発見につながったかもしれない」と指摘。会見が2日夜になったことを、「県民への被害拡大を防止する観点からは、少し遅かったのでは」としている。(笹川翔平)