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2011/04/28

【SPEEDI 】 原子力安全委=「行政機関として責任を持って出せるデータではない」  文科省=「震災後の運用は原子力安全委の担当」

放射能予測システム不備 全国の原発 改善せず 
福島原発機器破損 関係機関 責任転嫁
2011年4月28日 16:16
 東日本大震災に伴う福島第1原発事故で放射性物質の放出量を測定できなくなり、放射性物質の拡散を予測する文部科学省の「緊急時迅速放射能影響予測(SPEEDI)ネットワークシステム」が十分に機能しなかった問題で、文科省や原子力安全委員会が震災後も、全国17カ所の原発で同システムの地震や津波対策を講じていないことが分かった。住民の安全を守るため開発・運用に総額128億円を投じたシステムの早期改善が求められるなか、関係機関による対策の“譲り合い”が続いている。


 1985年に運用が始まった同システムは、原発から大気中に放出された放射性物質の種類や量を、建屋の排気筒のモニターで測定。風向きや地形を考慮して、拡散状況を17分間で84時間先まで地図上で予測できる。人口や避難所の位置も入力されており、国や自治体に配信する。

 ところが、福島第1原発事故では排気筒のモニターが壊れ、放射性物質の情報が入手できなかった。仮定の放出量に基づく試算で、ある程度正確な拡散の方向は示せたが、原子力安全委は「行政機関として責任を持って出せるデータではない」と判断。批判を受け、政府が予測結果を公表したのは、震災発生の12日後だった。

 全国17カ所のすべての原発とネットワークを結ぶシステムを年約7億8千万円の業務委託で運用する財団法人・原子力安全技術センターは「排気筒モニターの強化など、他の原発での再発防止策はまだ何も検討されていない」と説明する。

 西日本新聞の取材に、文科省は「震災後の運用は原子力安全委の担当で、福島第1の壊れたモニターの代替措置の議論もない。全国の原発での対策も現状では明確でない」(原子力災害対策支援本部)。原子力安全委は「システムは文科省の所有物。今後の対応策は文科省に聞いてほしい」としている。

 九州電力によると、26日に国へ報告した玄海(佐賀県玄海町)、川内(鹿児島県薩摩川内市)両原子力発電所の緊急安全対策にも「国から特に指示はなく、排気筒モニター強化の対策は盛り込んでいない」(広報部)という。
 原子力政策に詳しい九州大の吉岡斉副学長(科学技術史)は、モニターの損傷でシステムが十分に機能しなかったことについて「設備だけ設置すればいいと考え、強度への見通しが甘かったのではないか。専用の免震構造物に入れるなど、全国の原発で再発防止の対応を急ぐべきだ」と指摘している。

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 ●ワードBOX=SPEEDI

 原子力施設で緊急事態が発生した際、放射性物質の広がり方や各地の放射線量を予測し、地図上に表示するシステム。原子力安全技術センターに設置されたコンピューターを中心に、国と自治体、日本気象協会がネットワークで結ばれている。風向きや降水量などの気象情報、地形、放射性物質に関するデータを使って試算する。1979年の米スリーマイルアイランド原発事故を受け、国内で80年から開発に着手。原子力安全委員会の指針で、国や自治体の避難計画策定に活用するとされている。


=2011/04/28付 西日本新聞朝刊=