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2011/03/17

円急騰  約16年ぶりに最高値を更新

外為・株式:円一時76円台 被災経済に追い打ち 投機マネー殺到



 ◇国内に資金「還流」観測
 外国為替市場の円相場が急伸し、戦後最高値を大きく超える1ドル=76円台に突入したのは、東日本大震災と福島第1原発事故の深刻化を受け、外国人投資家を中心に「日本の機関投資家が資金を国内に戻すため、円を買う動きが強まる」との見方が広がったためだ。【清水憲司】

 95年の阪神大震災の際、日本企業が手元資金を厚くするため、ドル建て資産を売って円を調達するのではとの思惑から、投機筋の円買いが入り、震災約3カ月後の同年4月、円が戦後最高値を記録した。この時の記憶から、今回も投資家は「震災後の円高」を連想。東日本大震災後の日本経済が企業の生産停止拡大や株価急落などの悪材料に直面しているのとは裏腹に、一気に円買いに動いた。

 実際には「阪神大震災の時も今回も、日本企業が円の確保を急いだ事実は確認されていない」(アナリスト)とされ、市場でも「今回の円急騰は投機筋主導の動きで、長続きしない」との声が上がっている。一方、阪神大震災後の円高局面で政府は繰り返し、円売り・ドル買いの単独介入を実施したが、効果はなく、夏以降、日米欧が協調介入するまで円高が続いたことから「今回の円高が長期化する」(三菱UFJ信託銀行の塚田常雅グループマネジャー)との観測も出ている。

 原油価格が高止まりし、今後の復興需要で輸入が増えるとみられる中、円高で資源を安く輸入できることは日本経済にプラスとなる。だが、自動車や電機などの輸出型企業は、11年1~3月期の想定為替レートを1ドル=80円台前半に置いており、70円台の水準が続けば、大きな減益要因となる。輸出主導で回復してきた日本経済も、大震災、原発事故、円高のトリプルパンチに見舞われかねない。産業界からは17日、「正直、言葉がない。復興するための重要なところ(の輸出)まで影響を受けるのは、少し耐えられない」(日本自動車工業会の志賀俊之会長)との悲鳴が上がっており、政府・日銀に為替介入や一層の金融緩和を求める圧力が高まる可能性もある。

毎日新聞 2011年3月17日 12時38分(最終更新 3月17日 13時09分)





                ドル/円JPY=    ユーロ/ドルEUR=   ユーロ/円EURJPY=
午後3時現在   79.25/30       1.3925/27        110.36/40

正午現在      79.20/23       1.3920/22        110.22/29

午前9時現在   79.15/16       1.3881/87        109.86/90

NY17時現在    77.67/71       1.3921/27           110.60/67






利益吹っ飛ぶ「円急騰」!国難状態なのに…なぜ買われるのか?
2011.03.17

 被災で苦しむ日本企業に新たな試練が襲いかかった。17日の外国為替市場で円相場は一時、1ドル=76円台前半まで急騰し、1995年4月につけた史上最高値(79円75銭)を大きく突破、約16年ぶりに最高値を更新した。主力輸出企業の想定為替レートを大きく上回っており、この円高水準が続けば営業利益が吹っ飛びかねない。

 円相場は前日のニューヨーク市場で80円台を突破し、17日のシドニー市場では一時76円25銭まで急騰した。

 続くこの日午前の東京市場では79円台前半で取引されている。

 東日本大震災と原発事故という「国難」状態にある日本なのに、なぜ円が買われるのか。

 不可解な相場の背後には、震災と原発事故をきっかけに世界的な株価暴落でダメージを受けた投資家が、高金利通貨への投資などリスクの大きい運用をやめ、取引を一度手じまうため「金利が低い円を買い戻す動きが急速に広がった」(市場関係者)ことがあるという。

 また、日本企業が外貨建て資産を売って円に換えるとの見方や、国内の保険会社が震災による保険金支払いに備えるため、ドル建て資産を売って日本に送金する動きもあるとされる。

 だが、外資系証券エコノミストは、「実際にそうした現象が起きているというよりも、投機的な資金が先回りして円買いを浴びせたという側面が強い」と指摘する。パニックに乗じた仕掛け的な円買いというわけだ。

 前回の最高値が1995年1月に起きた阪神大震災から3カ月後に記録されたことも円の連想買いに拍車をかけたようだ。

 円高の急激な進行は、輸出頼みでようやく薄明かりが見えてきた日本経済に大打撃を与える恐れがある。

 想定為替レートを1ドル=86円に設定しているトヨタ自動車の場合、対ドルで1円円高に動けば、本業の儲けを示す営業利益が300億円減少する。仮に最高値の76円台の為替水準が1年間続いた場合、3000億円の営業利益が吹っ飛んでしまうのだ。

 また、円高が進行すると海外で販売する自動車や液晶テレビなどの製品価格が現地価格ベースで上昇する。国内メーカーは、海外市場においてライバルの韓国メーカーとの価格競争力で後れをとり、利益が減少しやすくなってしまう。

 市場では政府が為替介入を実施するとの観測が広がっている。原発事故では後手後手に回った政府に、どれだけの対応ができるのか…。