2011年2月25日15時2分
広告最大手の電通の元エンタテインメント事業局企画業務推進部長(46)が2002~08年、本来の目的とは異なる業務発注を繰り返し、40億円以上を流用していたことがわかった。取材に元部長が認めた。親族が役員だった広告会社などに業務を下請けさせ、入った資金を運営を担当していた音楽施設の資金繰りの穴埋めなどに使っていたという。
元部長は社内調査にも一連の発注を認め、電通は元部長を懲戒解雇とした。元部長による一連の取引を巡っては、業務委託先の3社が電通などを相手取り、未払いの委託料など計約46億8700万円の支払いを求める訴訟を東京地裁に起こしている。
元部長や電通によると、元部長は東京都渋谷区にあるライブハウス「シブヤボックス」の立ち上げにかかわり、02年4月、電通やテレビ東京などがこの施設の運営目的で設立した共同事業組合の事務局次長に就任した。
元部長によると、知人が役員を務めていた大阪市のコンサルタント会社など約10社を1次委託先とし、組合や電通などの名義で施設の運営関連業務などを発注。その際、以前に父親が役員を務めていた広告会社など数社を2次委託先に指定、1次委託先から2次委託先に作業代金を前渡しする契約を結んだ。しかし、実際には広告会社などは目的の作業をせず、渡された資金は、別の1次委託先への支払いや施設の土地の賃料など、主に施設の資金繰りの穴埋めに使われたという。
電通は昨年3月、これらの取引を「作業実態がなく、架空だった」として、元部長を懲戒解雇とした。電通広報部は取材に対し「社員がこうした事態を起こしたことは遺憾だが、係争中でもあり、コメントは差し控えたい」。テレビ東京広報・IR部は「不正な取引があったことは残念だが、(元部長は)組合とは関係ないところで取引しており、発覚までは知るよしもなかった」と回答している。(川見能人)
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電通の元部長は1~2月に数度、取材に応じた。主なやりとりは以下の通り。
――流用のきっかけは。
シブヤボックスの資金ショートを防ごうと始めた。元々は放送スタジオの予定だったが出資者が撤退し、ライブハウスになった。建設費がかさんで資金繰りに困っていた。
――なぜ流用を続けたか。
収益が伸びず、業務委託先に支払う金に困るようになった。資金調達のために委託先を増やすうちに支払いが増え、回しきれなくなった。
――私的流用はないのか。
金は施設運営だけに使い、一切ない。借金を抱えてライブハウスになったのは元々の出資者と上司の都合が発端。それを押しつけられて自分の評価を下げるのは嫌だった。