東京電力福島第1原発事故で避難した、原発周辺の特別養護老人ホームで、避難後死亡した入所者が前年同期(10年3月1日~11年1月1日)の死者の2倍近いことが福島県の調査で分かった。長時間移動による心身への負担や、受け入れ先での介護環境の急変が背景にあるとみられる。
調査は、事故後に避難指示や屋内退避指示が出された原発30キロ圏内とその周辺にある特養13施設が対象。入所者計931人の状況を調べたところ、今年1月1日までに少なくとも206人が死亡していた。10年同期の107人(総数は13施設931人)、09年同期の86人(同12施設895人)を大きく上回っている。県は「入所者の現状はすべて把握できているわけではない」としており、死者数は今後増える可能性がある。
原発の約23キロ北にある特養「福寿園」(福島県南相馬市)。原発事故後の3月15日、政府による「屋内退避指示」が出た。放射能汚染の不安から職員が相次いで避難。物流も滞り、入所者に提供する食事や薬は1週間足らずで底を突いた。「このままでは餓死者が出てしまう」。19日早朝、入所者96人全員を観光バス6台に乗せ、約10時間かけて横浜市内の老人福祉施設に運んだ。寝たきりのお年寄りは座席をぎりぎりまで倒して寝かせた。
同日夜、施設に到着したが全員に十分な介護は難しかった。再び受け入れ先を探し、多くを東京、大阪、山形など10都府県の施設に運んだ。山形県に移動した人の中には、症状に応じた介護を受けるためさらに同県内の施設に移動した人もいた。
福寿園によると、96人中26人が避難先で死亡した(2月末現在)。「例年、亡くなるのは年間14~15人だが、震災後は顕著に多い。長時間移動の負担に加え、避難先での介護が変わって体調を崩し、回復できなかった人も多くいた」と言う。
同施設は昨年末、南相馬で再開した。「遺族から『なぜ避難させたのか』と詰め寄られたこともあるが、避難させなければ餓死者が出ていたかもしれない。どうすべきだったか、今も分からない」と打ち明ける。
県によると、事故後、原発30キロ圏内にある介護福祉施設ではほとんどの入所者が避難した。特養より要介護度の低い人が入所するグループホームや養護老人ホームなど15施設でも、避難後の死者数は前年同期を上回った。
南相馬市内の介護施設での避難状況を独自に調べている東京大医科学研究所の坪倉正治医師は、死者急増と避難の関連を認めた上で「介護職員が避難し、入所者の命を守るためやむなく避難を決断した施設もあり、残るべきだったと一概には言えない。当時の避難状況を徹底的に検証して今後に生かすべきだ」と指摘する。【神保圭作】
毎日新聞 2012年3月4日 10時11分(最終更新 3月4日 21時05分)
2012/03/04
遺族から『なぜ避難させたのか』と詰め寄られたこともあるが、避難させなければ餓死者が出ていたかもしれない。どうすべきだったか、今も分からない
福島第1原発:避難の特養高齢者死亡2倍 環境急変背景に