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2012/02/17

ソーラーや風力のような小規模の発電を増やすためには、巨大な原発や火力発電を持っている電力会社が送電も独占的に持っている状況の改革が必要だ。改革の例として発送電分離は一つの案としては有力だと思っている=菅直人

インタビュー:脱原発は代替供給がカギ=菅前首相
2012年 02月 17日 21:26 JST
[東京 17日 ロイター] 菅直人前首相は17日、ロイターのインタビューに応じ、昨年3月11日の東日本大震災とそれに伴う東京電力(9501.T: 株価, ニュース, レポート)福島第1原子力発電所の事故を契機に、首相在任中に打ち出した「原発に頼らない社会」を実現するには、「原発がなくても必要なエネルギーを供給できることがカギ」だと強調した。
そのためにも「再生可能エネルギーを増やすには改革が必要で、改革のあり方の例としては発送電分離が一つの案として有力」と指摘した。



前首相はまた、国による東電への公的資本注入と、国がどの程度の議決権を握るかが焦点となっていることについて、「そうした質問には答えないが、いまの内閣は頑張っている。この問題は現内閣がしっかり判断してくれると思う」と語った。インタビューでの主なやり取りは以下の通り。


──退任から約半年。最近の活動は。ダボス会議(世界経済フォーラム年次会議)に出席したが。

「原発に頼らないでも、経済も生活も含めてしっかりやっていける日本や世界を目指して活動しようと思い、退任後の5カ月余り、そこにエネルギーを集中している。ダボスでは、核兵器では核拡散防止条約という形で究極的には核兵器をなくしたいという国際的なルールがあるが、原発については必ずしもそうしたルールがない。しかし、事故や高濃度の廃棄物の問題は各国に任せていいことではない。国際的なルール作りやIAEA(国際原子力機関)など議論して方向性を出していこうという問題提起するためにいろいろな方と会い話した」


──脱原発を打ち出した理由は。

「3.11以前は、私自身、原発の安全性をしっかりと確認したうえで活用していく。特にCo2(二酸化炭素)削減という問題が重視された中で、3.11前は化石燃料を使わないエネルギーとしての原発にシフトしたほうが温暖化問題に対応できるという側面もあって、国の政策としても原子力依存を強めることになっていたし、私もそういう立場だった」

「しかし、3.11の原発事故を経験する中で考え方を変えた。最大の理由は、場合によっては首都圏を含む地域から人が住めない、避難しなければならないことになりかねない状況に拡大した時には、国の存在が危うくなる。大きなリスク、危険性に対してどう原発の安全性を確保できるのか。いろいろな技術はあるが、それだけ大きなリスクをカバーできない。一番安全なのは原発に頼らないでもいい社会を作る。それは可能だ。そう考えた」


──いつまでに原発ゼロにできるか。
「原発がなくても必要なエネルギーが供給できるというのが大きなポイント。原発が非常に危ないのでエネルギーが多少足りなくても仕方がないという人もいるが、国民全体ではエネルギーが足らなくてもいいという判断は多くの人はしていない。原発がなくても必要なエネルギーが供給できる、その態勢を作ることに私は一番力を入れている」

「残念ながら日本では再生可能エネルギー源は水力を除くと電力の中で1%。ドイツはすでに20パーセントで、(日本では)これまでは非常に抑えられてきた。だから急激に増やしていく必要がある。そのために日本版フィード・イン・タリフ(FIT=再生可能エネルギー全量買い取り制度)の法律を作った。そうしたことが順調にいけば、例えばドイツは2050年までに8割のエネルギーを再生可能エネルギーで賄うと言っているが、それに追いつくような方向も全力を挙げれば可能だと思っている」


──原発が要らないという時期までに、(原発は)国有化など何らかの形で国家の仕組みが必要だという見方は。

「例えば、北海道の北のほうは風力が非常にいいが、そこに風力発電機を付けても送電線がない。北海道電力(9509.T: 株価, ニュース, レポート)に送電線を作るように要望しても北電にとってはすでに電力はあるから送電線を(新たに)引くメリットはない。しかし、日本全体には必要な仕事。そうすると、送電をそれぞれの電力会社の自主判断に任せるのか、国全体として判断としてやるべきか。まずは欧州のほとんどの国のように発電と送電を分けるなど、再生可能エネルギーを増やすためにどういう制度改革が必要なのか、電力会社のあり方については全体の議論が必要」


──発送電分離が必要だという考えか。

「諸外国の例をみるとソーラーや風力のような小規模の発電を増やすためには、巨大な原発や火力発電を持っている電力会社が送電も独占的に持っている状況の改革が必要だ。改革の例として発送電分離は一つの案としては有力だと思っている」

「日本も潜在的にはこの分野についてものすごく高い能力がある。これらの分野はイノベーションのチャンスの塊だ。(従来)それらを抑え込んできた。(いまは)その蓋が取れた状況で、これを開けて積極的にイノベーションを進めていく。そういう点では私は楽観的だ。十分、日本はドイツに負けないテンポで原発や化石燃料以外のエネルギー供給を増やしていく一方で、住宅やオフィスで省エネを徹底的に進める。そういう意味で、脱原発社会を作ることが、日本の(成長)モデルになることは十分に可能だと思っている」

「潜在能力をしっかり生かすかどうかが今年(がカギ)だと思う。(7月開始の)FITの条件が決まり買取が可能だということがわかれば、関係企業はいろいろなことを考えている。例えば三菱重工業(7011.T: 株価, ニュース, レポート)は大きな風力(発電機)をイギリスやアメリカに売っているが、今度、福島沖に浮体式の風力発電7000キロワットの風車を140基ぐらい並べようと計画している。これだけの規模ができれば世界で最も進んだものになる。日本の周りに浅い海は少ないが、多少深い海でよければ(浮体式の)適所はたくさんある」

──国が東電に公的資本注入を行い、議決権の3分の2以上を握ることが議論されている。

「そういう質問には答えない。私が申し上げたいのはいまの内閣は頑張っているということ。私は、再生可能エネルギーを増やして原発がなくても済むような社会にしていこうということに力を注いでいる。それと矛盾するようなことがあれば、いろいろ言わないといけないが、いまの内閣は基本的に(前首相と)同じ方向を目指していると思う。この問題は現内閣がしっかり判断してくれると思う」

(インタビュアー リンダ・シーグ 浜田健太郎 久保田洋子 石黒里絵)

(ロイターニュース、浜田健太郎)