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2012/01/10

「もんじゅ」 火災になりやすい地震に弱い核暴走を起こしやすい(核分裂が制御できなくなる)

特集ワイド:もんじゅ、三つの危険 火災が怖い、地震に弱い、核暴走も
発電しながら核燃料のプルトニウムを増殖させる原子力発電所「高速増殖炉」が、岐路に立っている。脱原発の世論が高まる中、高速増殖炉の研究開発に莫大な資金を投じることに疑問が広がっている。高速増殖炉に反対し続けてきた元京都大原子炉実験所講師、小林圭二さん(72)に問題点を聞いた。【和泉かよ子】





◇専門家指摘「監視が必要」
 電力会社が運営する原発の「軽水炉」は、核燃料を消費するだけで増殖はしない。高速増殖炉はプルトニウムを生産する機能を優先しているために、軽水炉より危険性が高い構造だという。小林さんは「高速増殖炉と軽水炉はまったく別のものと考えた方がいい」とクギを刺す。

 現在、日本の高速増殖炉開発の最前線は、独立行政法人「日本原子力研究開発機構」の「もんじゅ」(福井県敦賀市)だ。まだ「原型炉」という研究段階の炉で、出力は28万キロワットしかないが、それでもさまざまな危険があるという。危険性を大きく三つ挙げる。火災になりやすい▽地震に弱い▽核暴走を起こしやすい(核分裂が制御できなくなる)。最初の二つは、冷却材が金属のナトリウムであることに起因する。もんじゅは液化した約500度のナトリウムが流れる構造だ。

 そもそも、なぜ冷却材が水ではなくナトリウムなのか?

 軽水炉はウランに中性子をぶつけて核分裂を起こし、もんじゅはプルトニウムに中性子をぶつける。中性子をぶつけるのは同じだが、軽水炉は中性子の速度が遅く、高速増殖炉は速い。あまり知られていないが、中性子の速度が遅い方が核分裂が起こりやすく効率がいい。そのため軽水炉は中性子を水で減速する。一方、もんじゅの「プルトニウムの増殖」は、中性子の速度が速いほどプルトニウムがたくさん生産できる。冷却材に水を使うと中性子が大幅に減速するため、なるべく減速させないよう金属のナトリウムを使う。

 小林さんは「『増殖』というからには、使用したプルトニウムより生産したプルトニウムが多くなければならない。プルトニウムの生産性を上げるため、もんじゅは中性子を減速しない。だから、核分裂の効率は悪い。それを補うため、核燃料はぎゅうぎゅう詰めで、燃料に占めるプルトニウムの割合も高い。これがまた危険性を高めている」と解説する。

 では、三つの危険を順番に見ていこう。

 「火災になりやすい」は、ナトリウムの化学的活性が強いため。水と爆発的に反応し、高温のナトリウムは空気に触れると燃える。実際に95年12月、配管に差し込んでいる温度計のカバーが壊れ、隙間(すきま)からナトリウムが漏れて火災になった。

 「地震に弱い」は、ナトリウムを流す配管のことだ。「配管の肉厚が薄い。軽水炉(加圧水型)は約7センチあるが、もんじゅは1センチぐらい」。ナトリウムは熱しやすく冷めやすい。原子炉が緊急停止すると、ナトリウムは急激に温度が低下し、配管の内側と外側で温度差が生じる。配管に厚みがあると温度差で破断してしまうのだ。

 最後の「核暴走の危険性」が最も深刻。小林さんは「停電して冷却材のナトリウムを流すポンプが動かなくなったとする」と想定し、「流れなくなったナトリウムが核燃料に加熱され、沸騰すると危険だ」と言う。ナトリウムが気化すると、飛び交っている中性子は衝突する相手が減って速度が上がる。ここで重要なのは「中性子の速度が上がると、1回の核分裂で放出される中性子の数が増える」という現象だ。中性子が増えるので核分裂が増え、更に温度が上がってナトリウムがもっと気化する。中性子の速度は更に上がる--。この拡大悪循環に陥るという。

 中性子の速度が遅い方が核分裂の効率がいいと前述したが、高速増殖炉で使う「高速中性子」の領域では、速度変化は核分裂の効率にほとんど影響しない。小林さんは「高速増殖炉では、中性子の速度が上がると核分裂は増大する」と結論付ける。核燃料の温度が2800度を超えると燃料が溶けてくっつき、ますます危険になるという。

 もんじゅも軽水炉と同様、非常時には制御棒が作動し、中性子を吸収して核分裂を抑える。しかし小林さんは「高速増殖炉の拡大悪循環は数十秒で進む。制御棒の抑制効果を超える過酷事故はありうる」と警鐘を鳴らす。

 もんじゅの来年度予算が削減されるなど、高速増殖炉の開発にはこれまでにない逆風が吹いているように見えるが、小林さんは「原子力ムラはそう簡単に方針を撤回しない。表から見えないところで政治的な動きを続ける。今後も監視は必要だ」。眼鏡の奥の目は鋭かった。


◇「何重にも安全措置」 原子力機構「全電源喪失でも問題なし」
 危険性の指摘について、もんじゅを運営、管理する日本原子力研究開発機構の敦賀本部広報課に聞いた。

 まず、耐震性は「2010年の耐震性の再評価で、想定される最大の揺れ760ガルでも設備の安全性は保たれると結論付けられた」とする。

 火災の危険が伴うナトリウム漏れ対策としては「格納容器の1次系ナトリウムがある部屋は常に窒素で満たしており、ナトリウムが漏れても空気と触れて燃焼することはない」と説明。2次系でナトリウムが漏れた時は「配管からナトリウムを速やかに抜き取って漏えい拡大を防ぐとともに、多量のナトリウム漏れが検知されれば窒素を注入し影響の拡大を防止する」。

 核暴走に関しても「何重にも安全措置があり、そのような事態にはつながらない」と可能性を否定。原子炉が稼働中に非常事態で電源喪失した場合、原子炉上部につり下げられている19本の制御棒は重力で自然落下し、中性子を吸収して核分裂を停止させる。「電源喪失しても制御棒は機能する」

 停電の際は非常用ディーゼル発電機が自動起動するが、福島第1原発のように全電源を喪失したら?

 同課は「冷却材のナトリウムを循環させるポンプは停止するが、ナトリウムは自然循環して空気冷却器で冷やされる。気体や液体は熱いものが上に上がり、冷たいものは下に下がる。この自然現象で循環するので、核燃料でナトリウムが加熱されて沸騰することはない」。

 あくまで「ナトリウムは沸騰しない」という見解だが、何らかの理由で沸騰しても核暴走には至らないのか聞いた。同課は「(ナトリウムが沸騰して)気泡が発生すれば、一時的に炉心の中心部で核分裂が増える。しかし、もんじゅの炉心は、規定以上に出力が上昇すると原子炉から漏れる中性子が増え、自然に核分裂が抑制される特性がある」と説明。出力が異常上昇した場合は、制御棒が挿入され自動停止する仕組みもあるという。全電源を喪失して冷却材のナトリウムが沸騰するという最悪の事態でも、「全電源喪失時は制御棒が挿入され核分裂が停止しているので、ナトリウムに気泡が発生しても問題にならない」と強調した。

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毎日新聞 2012年1月10日 東京夕刊