野田佳彦首相は20日、北朝鮮の金正日総書記死去を受け、後継体制に核放棄を促すには6カ国協議の早期再開が不可欠として議長国の中国に積極的な関与を求めていく方針を固めた。25日からの自身の訪中に合わせ、首脳会談で胡錦濤国家主席や温家宝首相に直接訴える。また北朝鮮を除く米国、韓国、ロシアを含めた5カ国での協調体制づくりも視野に、首脳や外相レベルで関係国との協議も進める方針だ。
金総書記死去後もウラン濃縮など核開発が進む懸念が拭えず、国際的な連携が必要と判断した。
2011/12/20 21:09 【共同通信】
金総書記死去、米大統領の北朝鮮核問題への取り組みが複雑化も (1)
12月19日(ブルームバーグ):北朝鮮の独裁者、金正日総書記の死去により、同国に核兵器を放棄させ、好戦的な行動をやめさせるための米国の取り組みが複雑になり、オバマ米大統領は危機に直面する恐れもある。
金総書記の死は、孤立した共産主義国家である北朝鮮そして北東アジアに不安定な時期が到来したことを告げるものだ。金総書記は核兵器の開発を進め、米国の同盟国に脅威を与えた。また経済面での失政により、深刻な飢餓を招いた。総書記の死去により、北朝鮮と米韓合わせて170万人の軍隊が対峙(たいじ)する朝鮮半島をめぐり判断を誤る危険性が高まっている。米国は韓国と日本に7万5000人の軍隊を駐留させており、条約に基づき同盟国を防衛する義務を負っている。
ブッシュ政権時に北朝鮮の核問題をめぐる6カ国協議の米次席代表を務めたビクター・チャ氏はインタビューで金総書記の死去について、「状況を一変させる出来事になる可能性がある」と指摘。「専門家に北朝鮮の崩壊シナリオで最も可能性が高いのは何かと尋ねれば、答えは『金正日がきょう死んだ場合』というものだろう。今、そのシナリオが現実になっている」と述べた。
北朝鮮の政権移行で、韓国のリスクも高まっている。株式市場では韓国総合株価指数が19日、前週末比3.4%安で終了。外国為替市場では韓国のウォンが対ドルで1.4%安の1ドル=1174.80ウォンとなった。
アジアは米外交の重点
北朝鮮では今後、敵対的姿勢の硬化や国家崩壊に伴う人道面での緊急事態など厳しい状況に陥る可能性がある。オバマ政権にとっては、大統領選を11カ月後に控え、イラクからの米軍撤退を完了させる中で外交政策面での新たな難題となる。
クリントン国務長官はわずか数週間前に米国がアジアに軸足を置く方針を表明したが、北朝鮮情勢が不透明になったことでアジアはオバマ政権の最優先事項になった。オバマ大統領は主に貿易拡大を通じてアジアを米経済回復のエンジンとしたい考えで、そのためにもアジアの安定は不可欠だ。
クリントン長官は19日も北朝鮮問題を優先。デービーズ北朝鮮担当特別代表との協議後、訪米中の玄葉光一郎外相と会談した。共同記者会見でクリントン長官は、「北朝鮮の平和的かつ安定的な移行と、地域の平和と安定の確保がわれわれの共通の利益だ」と言明。「北朝鮮国民との関係改善を望んでいることをあらためて強調する。北朝鮮国民の生活状況を引き続き強く懸念している」と付け加えた。玄葉外相は、核問題で北朝鮮の具体的な行動が必要との認識でクリントン長官と一致したことを明らかにした。
「新たな懸念はない」
カーニー米大統領報道官はホワイトハウスで、北朝鮮の核兵器をめぐる「新たな懸念はない」と述べた。同報道官は記者説明会で、米国が北朝鮮情勢を注視しているとした上で、同盟国の日韓両国のほか、6カ国協議に参加している中国やロシアと協議していると語った。
韓国の聯合ニュースは2日前、北朝鮮がウラン濃縮活動を停止するとの理解の下で、米国が北朝鮮に対し食糧支援を実施すると報じた。米当局は、この報道の確認は避けた。
現在、戦略・国際研究センター(CSIS)に所属するチャ氏は、北朝鮮の不安定な状況への対応について、金魚鉢をのぞき込もうとする動きに例えた。
同氏は「皆、金魚鉢を外からのぞき込もうとしているが、鉢の中には手を入れないように非常に気を付けている感じだ」と述べた。
懸念すべきシナリオ
米国の複数の元高官によれば、懸念すべきシナリオの中でも最も起こる可能性が高いのは、金総書記の死により、三男で後継者である金正恩氏が自身の体制強化を示そうと核兵器の開発を加速させ、隣国に脅威を与えることかもしれない。
ブッシュ政権下で国家安全保障会議(NSC)のアジア担当シニアディレクターを務めたマイケル・グリーン氏は「疑問の1つは、正恩氏と取り巻きが、正恩氏の権力掌握を証明するために何かするのかということだ」とし、「48時間以内にはないだろう。だが向こう数週間から数カ月では、そうした動きが起こり得ると私は考えている」と続けた。
金総書記に比べ、正恩氏が権力基盤を固める時間ははるかに短かった。現在28歳もしくは29歳とみられる正恩氏が公式に後継者とされたのは、ようやく昨年、党中央軍事委員会副委員長に指名されてからだ。
現在CSISとジョージタウン大学に所属するグリーン氏は、「北朝鮮は世界で唯一の共産主義・君主制国家であり、その君主が死亡した。君主が亡くなれば、後継者を定めていても、権力闘争や内戦の勃発はあり得る」と分析した。
更新日時: 2011/12/20 11:48 JST