【ワシントン時事】パネッタ米国防長官は10日、国防総省で記者会見し、イランの核開発を阻止するために対イラン軍事力行使に踏み切れば「意図しない結果を招き、地域に重大な影響を与える恐れがある」と述べ、追加経済制裁や外交圧力による問題解決を優先すべきだとの考えを強調した。
パネッタ長官は、イランの核施設を空爆しても核開発を3年程度遅らせるだけだとするゲーツ前国防長官の見解を支持。軍事行動に踏み切れば、中東地域の「駐留米軍に深刻な影響を与える可能性がある」と語り、イスラム社会で反米感情が高まるデメリットも指摘した。(2011/11/11-08:50)
http://www.jiji.com/jc/zc?k=201111/2011111100154
イラン攻撃論が浮上=本音は制裁進展が狙い?-イスラエル
【エルサレム時事】国際原子力機関(IAEA)は、8日発表した報告書で、イランの核兵器開発の可能性を指摘した。イランが「平和利用」を主張する核計画への懸念が高まる中、イスラエルによるイラン単独攻撃論が急浮上している。
イスラエル紙ハーレツは2日、ネタニヤフ首相とバラク国防相が他の閣僚に対し、対イラン軍事作戦を支持するよう説得していると報じた。ペレス大統領も4日、テレビのインタビューで「(イランの核兵器取得を)止めるためにはどんな手段も必要だ」と発言、攻撃論の火に油を注いだ。
イスラエルは1981年にイラクのオシラクで建設中だった原発を、2007年にはシリアの核関連施設とされる建物をそれぞれ空爆で破壊した「実績」がある。
しかしイスラエル軍幹部は今年8月、ロイター通信に、1回の空爆で成功したイラクやシリアの例とイランを比較はできないと断じた。「(核関連施設が分散しているため)一撃でイランの核計画を破壊することは不可能」だからだ。
専門家の間では「仮にイランを攻撃するとしても、米国に任せるべきだ」との意見が支配的。今回の単独攻撃論は、イラン核開発の切迫性を強調し、米欧により厳しい制裁を実施させるのが狙いとの見方もある。
(2011/11/10-14:36)
http://www.jiji.com/jc/zc?k=201111/2011111000539
イラン核問題:IAEA、開発疑惑に「根拠」 米、圧力強化へ本腰
国際原子力機関(IAEA)は8日、イランの核兵器開発疑惑について初めて具体的な根拠を示した。これを受け、米国が国連安全保障理事会での対イラン追加制裁決議に向けた協議に本腰を入れるのは確実だ。しかし、中国やロシアは制裁強化になお消極的だ。また、国内の政治情勢が不安定なイランは、「外圧」に妥協できる状況になく、深まる疑惑をよそにイランを取り巻く状況は不透明さを増している。【ワシントン白戸圭一、エルサレム花岡洋二、バンコク鵜塚健】
◇イスラエル情勢に配慮
IAEA報告書公表を受け、米政府高官は8日、記者団に「報告書が提起した問題についてイラン政府が回答できないのならば、我々は追加的な圧力を求めるだろう」と述べ、イランに対する米国独自の追加制裁を追求する方針を明らかにした。さらに高官は、「(追加的な圧力には)他の国々と実施する措置も含まれる」とも述べ、安保理の追加制裁を求める考えも示唆した。
米国が圧力強化を追求する背景には、イスラエルが対イラン軍事行動の可能性をちらつかせている問題がある。
イスラエルは以前から、イラン攻撃の可能性を排除していないが、今回の報告書公表を前に空爆に踏み切る可能性を示唆する報道が過熱していた。ペレス大統領も地元テレビで「今こそ制裁強化か、武力行使か。(イランの核保有阻止の)約束を守る時だ」と述べ、国際社会に早急な対応を迫った。
一方、報告書公表を受けイスラエルのネタニヤフ首相は8日、閣僚に発言を控えるよう指示した。政府の公式コメントも発表していない。報告書が核兵器開発疑惑の根拠を示したことは歓迎しているが、それに続く経済制裁や軍事行動の可能性をめぐる議論で突出したイメージを国際社会に持たれるのを避け、国際世論の動向を見極めるのが狙いだ。
イスラエル政府は今後も、対イランの経済制裁強化を要求しつつ、単独または欧米と共同での軍事行動をも検討するとみられるが、オバマ米大統領は来年の大統領選を控え、中東情勢の緊張を高める軍事衝突には慎重だ。そのため、米政権はイスラエルに「イランとの軍事衝突は求めていない」(ヌーランド国務省報道官)とのメッセージを送りながら、イランへの外交圧力を強める姿勢を示す必要に迫られている。
今後の焦点は、安保理での対イラン制裁協議だが、中国やロシアはなお制裁協議に後ろ向きな姿勢を崩していない。米国が思うとおり安保理で新たな制裁協議を進めるのは簡単ではなさそうだ。
◇「強硬」以外道なく--イラン
核兵器開発疑惑を指摘したIAEA報告書についてイラン政府は、「全く根拠がない。政治的動機に基づくものだ」と反発している。国際社会からの批判はイランにとって一定の圧力になるものの、イランの国内政治状況は不安定化しており、外交姿勢を転換する状況にない。イランにとって妥協は難しく、欧米との核開発交渉の進展は望めそうもない。
「IAEAは米国の手先だ。彼(天野之弥事務局長)は米国から受け取った文書をそのまま垂れ流している」。アフマディネジャド大統領は報告書公表前の8日、皮肉を交えてIAEAを非難した。疑惑の根拠となる「情報」の多くが古いことなどから、イラン政府は報告書の信ぴょう性を正面から否定、「平和利用の核開発」を従来通り主張し続ける構えだ。
イラン国内では現在、アフマディネジャド大統領と最高指導者ハメネイ師との対立が激化している。イランにとって、核問題解決と欧米諸国との協調は積年の課題だが、政策転換を主張すれば「弱腰」と映り、互いの批判材料にもなる。そのため、本音とは裏腹に「核問題での政策変更を誰も主張できず、強硬姿勢を維持する選択肢しかない」(ジバカラム・テヘラン大教授)状況だ。
従来の経済制裁がイラン経済に徐々に打撃を与え、米国が検討中のイラン中央銀行への追加制裁はさらに重大な影響をもたらすとの予測もある。しかし、「原油価格高止まりが続く限り、決定的困窮を招くことはなく、政策転換につながらない」(ジバカラム教授)。イラン政府の強硬姿勢は当分続きそうだ。
毎日新聞 2011年11月10日 東京朝刊