社説:TPP反対論 米国陰謀説は的外れ
環太平洋パートナーシップ協定(TPP)に対する議論が熱をおびてきた。このなかで、根拠に乏しく必要以上に不安をかきたてる反対論を少なからず見聞する。それには懸念を表明せざるをえない。
「TPPによって日本は一方的な被害国になる」「米国の陰謀だ」と主張する人が多い。しかし、主権国家が日本を含めれば10カ国集まり、相互の複雑な利害を調整する場である。日本だけが一方的に不利益をこうむるはずがない。
そもそも米国はTPPに日本が参加することを想定していなかった。菅直人首相(当時)が成長戦略の一環として、自らの発案で参加したいと言ったのだ。米国は日本に参加要請していない。
米国はアジア市場で米国抜きの自由貿易圏が形成されるのをおそれ、TPPによってアジア関与を強めようとしている。数カ国で開放度の非常に高い自由貿易圏を作り、それを広げ、最終的には中国も含めたアジア太平洋経済協力会議(APEC)諸国全体を包み込む狙いだ。
その過程で、日本の参加は歓迎に違いない。しかし、包括経済協議で数値目標を迫った頃とは違い「日本たたき」する経済的、政治的メリットはもうない。米国のビジネス界、政界は停滞する日本への関心を失っているのが実情だ。
交渉分野は24もあり、最近の反対論は農業以外に懸念を広げている。
混合診療解禁、株式会社の病院経営などを要求され、日本の医療制度が崩壊するという論もある。だが、公的医療制度が通商交渉のテーマになった例はなくTPPだけ違う交渉になることは考えられない。
TPPでは投資家が投資先の政策で被害を受けた場合、その国を訴えることができるという制度(ISDS)が議論される。それを「治外法権」などと攻撃する声がある。
だが、今後、日本企業はどんどん途上国への展開を加速する。してみれば、外資系企業に対し差別的扱いがあった場合、企業側に対抗手段があることは、全体として日本にメリットが多いと考えるべきだろう。
また、遺伝子組み換え食品について米国で安全と認定された食品は、食品表示に遺伝子組み換え食品であることを表示する必要はない、というのが米国の態度だ。これを押しつけられるのではないかという懸念があるが、豪州もニュージーランドも米国に反対であり、米国の主張が通ることは考えられない。
政府の態度表明までに残された時間は少ないが、国民にはまだあまたの懸念がある。不利な情報が仮にあったとしても、隠さず丁寧に説明していくことが理解を得る早道だ。
毎日新聞 2011年10月31日 2時31分
日本がTPPに参加すれば、まず、農業が壊滅的な影響を受けるだろう。日本の農業は外国資本に支配される事態が急激に広がる可能性がある。同時に、農業では残留農薬の規制緩和などが要求されており、日本の消費者の安全が犠牲にされる可能性も高まっている。
また、米国は日本の共済制度の解体を狙っていると見られ、保険分野に米国企業が大挙して押し寄せることも予想される。医療の分野では、保険適用外の医療行為を日本国内で拡大させる圧力が強まっており、これに連動して米国保険業界が日本での民間医療保険ビジネスを拡大。その準備を進めているとの情報も流れているのだ。
日本を含めたTPP参加予定10か国を見ると、GDP比は日米で91%、日米豪で96%に達する。実質的に日米EPA(経済連携協定)の側面が強く、米国の狙いは日本をTPPに引き入れ、米国企業の日本での活動を拡大させるのが目的と思われる。
製造業はTPPを積極推進しているが、製造業のGDP比率は17.6%にすぎない。そのために「残りの82.4%を犠牲にしていいのか」との言葉が、実態をうまく表現すると言えるだろう。
日本は米国に隷属せず、日本の国益を守るため、TPPを毅然と拒否するべきだ。野田政権の最優先課題は復興政策の早期実行にある。TPP交渉より大型経済対策を打ち出し、日本経済を急浮上させるほどのインパクトある対策を協議してほしいものだ。