【パリ支局】フランス南部のガール県マルクールにある低レベル核廃棄物処理施設「セントラコ」で12日正午前(日本時間12日午後7時前)ごろ、大きな爆発があった。少なくとも施設職員1人が大やけどを負って死亡、4人が重軽傷を負った。マルクール消防は「放射能漏れの危険性」を指摘したが、仏原子力庁は「当面は放射性物質の外部への漏出はない」(報道官)とし、原子力事故としてではなく、通常の産業事故として対応に当たっている。
現場は日本人観光客も多い観光地アビニョンから北約20キロ。発生から2時間半が過ぎた時点で、非常事態宣言や周辺住民らへの避難指示はない。爆発で火災も起きたが、事故発生から約1時間後に鎮圧された。
現地からの報道によると、爆発は12日正午前に発生。核廃棄物を熱で溶かす溶融炉内で起きた。遺体は完全に炭化しているといい、爆発のすさまじさを物語っている。
この施設は、原子力庁の研究センターや仏電力公社の子会社の核廃棄物処理会社などが運営し、原子力発電所の使用済み核燃料からMOX燃料(ウラン・プルトニウム混合酸化物)を抽出する再処理関連施設。仏原子力関連企業大手のアレバ社などもこの施設を利用しているという。
現場は、複数の原子力施設が混在する核複合施設。東日本大震災で被災した東京電力福島第1原発の事故以来、初めての原子力関連施設事故。
12日はウィーンで国際原子力機関(IAEA)の定例理事会が開会。IAEAは事故を受け、情報収集に乗り出した。
毎日新聞 2011年9月12日 21時23分(最終更新 9月13日 0時16分)
仏の核施設で爆発、1人死亡4人負傷 「放射能漏れなし」
当局は収束宣言
2011/9/13 0:08
【ロンドン=松崎雄典】フランス南部マルクールの核廃棄物処理工場で12日午前11時45分(日本時間午後6時45分)ごろ、爆発が発生した。AFP通信などによると、1人が死亡、4人が負傷したもよう。仏原子力安全局(ASN)は「事故は収束した」との声明を発表した。仏原子力庁(CEA)報道官は「現時点で放射能漏れはない」としており、周辺住民の避難などには至っていない。
現地報道によると、爆発したのは仏電力公社(EDF)の子会社「ソコディ」の溶融炉。放射線に汚染した金属製のポンプや金属工具を溶かしている。
ASNは緊急対策本部を設置し、原因などの調査に着手。「爆発が起きたのは金属でできた低レベルまたは極低レベルの金属放射性廃棄物を溶かす炉」だとしている。EDFは「爆発は産業事故で、原子力事故ではない」と説明しているが、仏紙ルモンドは「人的なミスがあったと思われる」という政府当局者の話を伝えた。
マルクールは原子力関連施設が多い地域。フランスは福島第1原子力発電所の事故を受けて安全性を点検するストレステストを実施している最中だった。
フランス南部の核関連施設で爆発 1人死亡、4人負傷
2011年9月13日0時58分
フランス南部のマルクール原子力施設にある低レベル放射性廃棄物処理・調整センターで12日午前11時45分(日本時間午後6時45分)ごろ、爆発があり、1人が死亡、4人が負傷した。仏原子力安全機関(ASN)は原因を調べる一方で、放射能漏れはないとして同日午後に収束を宣言した。
マルクールは南部の都市アビニョンから30キロ離れたガール県にあり、多くの原子力関連施設が集まっている区域。爆発があったセンターはこの中にある仏電力公社の子会社が運営する施設。フランス原子力庁によると、低レベルまたは非常に低レベルの放射性廃棄物を処理する溶融炉という。直後に火事が起きたが、すぐに鎮火したという。
ASNは朝日新聞の電話取材に「事故で負傷した4人は被曝(ひばく)していない。施設の内部と外部に放射性物質による汚染はない」と説明し、13日にも調査を担当する査察官を現地に派遣する考えを明らかにした。仏政府は、政権ナンバー4で原発問題に詳しいコシウスコモリゼ・エコロジー担当相を現地に派遣した。
AFP通信によると、この施設の近くでは、仏原子力大手アレバが核兵器から抽出したプルトニウムを使い、プルトニウム・ウラン混合酸化物(MOX)燃料を製造している。一帯に稼働中の原発はない。
仏内務省によると、事故時に施設にいた従業員に対し、待機や避難の命令は出していないとしている。ただ、地元紙(電子版)によると、警察は施設の一帯の立ち入りを一時禁止した。
仏事故、原子力大国に冷や水 周辺国に波紋
2011/9/13 1:24
【パリ支局】12日に起きたフランス南部マルクールの核廃棄物処理工場の爆発事故は、原子力発電所の安全性を強調して世界にも供給する原子力大国に冷水を浴びせる格好となった。仏当局は「事故は終結した」としたが、福島第1原発事故から半年、国際原子力機関(IAEA)が定例理事会を開催中というタイミングで起きただけに、欧州主要メディアはこぞって刻々と詳報。周辺国に波紋も広がっている。
仏原子力安全局(ASN)は事故後に事故終結を告げる声明で「汚染は一切検出されていない」などと指摘。同国のマンジャンIAEA担当大使は12日、IAEA本部で記者団に「これは原子力事故ではなく産業事故である」「放射能は外部に漏れておらず、過剰反応すべきでない」などと力説し、影響が深刻ではないと強調した。事故現場周辺も「避難などの処置は講じていない」(消防関係者)もようで、街の様子も普段と変わらないと伝えられている。
フランスには、過去の原発の放射能漏れ事故の反省を受けて2005年、重大な事故が発生した場合に政府が陣頭指揮をとるために発足させた「事故後指揮委員会」がある。放射能漏れなどが確認されたら即座に権限が発動し、仏電力公社など平常時の管理者に代わり、軍隊や省庁と協力し危機を管理する仕組みだが、今回は発動していない。
仏紙ルモンドなどによると、事故が起きたのは放射性廃棄物を再処理する前に体積を減らす装置。爆発が起きた時には炉に約4トンの低レベルまたは極低レベルの廃棄物が入っていたという。同紙は放射性物質の量は約6万3000ベクレルで「原発に比べると非常に低レベルの放射能」とという専門家のコメントも紹介した。原因については「漏れた水が溶融した金属と接触したこともあり得る」とした。
だが、仏テレビ局は発生直後から事故をそろって速報。英BBCやドイツのウェルト、イタリアのレブプリカ、スペインのエルパイスなどの主要紙も各社のサイトのトップ級で報道した。仏有力環境保護団体は「事故について徹底した情報公開を」などとする声明を出し、パリ株式市場では、事故があった施設を所管する仏電力公社(EDF)株が急落した。
フランスは原子力発電での豊富な実績を背景に、原発事業を有力な輸出産業として官民一体で振興している。中核企業アレバは、機器製造や維持・補修にとどまらず、ウラン探鉱や核燃料棒の製造、核廃棄物の再処理や廃炉作業、汚染水除去なども網羅。1兆円を超える規模の年商の6割が海外向けとなっている。
アレバは仏政府や政府関連機関の持ち株が9割を超える事実上の国営会社。国内の新設案件に限りがある中、原発導入を進める新興国への大統領外遊などには幹部が同行して技術を売り込んでいる。
だが、福島原発の事故後に国内の一部では「脱・原発」の動きが勢いづいており、今回の事故は自国や近隣諸国向け産業振興の逆風になりかねない危うさもある。それだけに、仏政府は担当相を現地に派遣。事故原因の究明や影響評価を急ぐ考えだ。