内閣府の食品安全委員会が「生涯の累積線量100ミリ・シーベルト以上」で健康に悪影響が出る可能性が高まるとした評価書案をまとめた。
長期にわたる被曝(ひばく)の影響を考えた数値が示されたことで、暫定規制値を含め、規制のあり方に影響が出そうだ。評価書の内容と今後の見通しをまとめた。
Q・今回の数値の意味は?
A・同委員会は、厚生労働省からの要請で、食品中の放射性物質が健康に与える影響を評価していた。4月から作業部会(座長・山添康東北大教授)で国内外の文献3300点を調査。26日にまとめた評価書案への意見を一般から聞いて、厚労省に答申する。
ポイントは、食品の暫定規制値が年単位での上限値を基に決まったのに対し、今回は人が一生で被曝する量を足し合わせた「累積」として長期にわたる上限値を示したこと。自然界からの放射線(日本平均年間約1・5ミリ・シーベルト)とは別に、おおよそ100ミリ・シーベルト以上追加で被曝すると、発がん率の増加など健康上の悪影響が見いだせるとした。
また、この100ミリ・シーベルトの根拠には、食品からの内部被曝だけでなく、大気中の放射線など外部被曝分も含む。本来は内部被曝の影響だけを評価するはずが、データが少なく、広島・長崎の原爆被爆者の疫学調査などを基に、外部被曝も入れた数値になった。
Q・被曝の目安になる?
A・そもそも普通の人がどれだけ被曝したかを把握するのは難しい。自然界の被曝と追加分とを区別できず、「生涯」の年数も個人差がある。個人が自分の被曝を考える目安というより、政府が規制を考える際に考慮する値だ。
小児は「より影響を受けやすい可能性(甲状腺がんや白血病)がある」としたが、具体的な数値は示さなかった。
Q・100ミリ・シーベルトを超えなければ影響は出ない?
A・100ミリ・シーベルト未満では、確実に放射線の影響と言い切れるだけのデータが見当たらなかった。現在の科学では影響があるともないとも言えないが「できる限り食品からの被曝を減らす低減策が大事」(山添座長)としている。
Q・暫定規制値は見直される?
A・暫定規制値は、放射性セシウムが5ミリ・シーベルト、放射性ヨウ素が2ミリ・シーベルト(甲状腺への影響を考えた線量だと50ミリ・シーベルト)と年間の上限値を決め、各食品群に振り分ける形で計算している=表=。そもそも、暫定規制値は、緊急時に政府が食品の摂取制限を始める目安として考えられた一時的な数値。評価書案の生涯100ミリ・シーベルトを十数年で上回る計算になる。長期間の規制のあり方が見直される見通しだ。
「放射性ヨウ素が減っており、年単位で考えると、暫定規制値の数値を大きく変える必要はない」(山添座長)との見方もあり、100ミリ・シーベルトを実際の規制にどのようにいつ取り入れるかは、厚労省などが検討を行う。
(2011年7月30日 読売新聞)
食品安全委