(2011年5月5日午後3時10分)
高速増殖炉「もんじゅ」(敦賀市)が運転再開して6日で1年となる。日本原子力研究開発機構は性能試験(試運転)の第1段階に当たる炉心確認試験を終えたものの、原子炉容器内に炉内中継装置が落下。回収作業は難航し、5、6月中に引き抜く方向で準備を進めている。そんな中、東京電力福島第1原発事故が起き、2011年度内の開始を目指す40%出力確認試験の工程がどうなるかは不透明感が漂う。原発の安全対策強化だけでなく、国はエネルギー政策見直しに踏み出すともみられ、高速増殖炉の開発意義自体が再び揺らぎかねない状況だ。
1995年12月のナトリウム漏れ事故以来停止していたもんじゅは、改造工事を経て昨年5月、14年5カ月ぶりに運転を再開した。機器の故障や警報作動、情報公開の不手際などはあったが、炉心確認試験は7月に無事終了した。ところが8月、燃料交換の後片付け中に、重さ3・3トンの炉内中継装置が原子炉容器内に落下する異例の事態となった。
同装置は落下の衝撃で変形。原子炉容器の上ぶたに引っかかり、引き抜けないことが判明した。上ぶたの一部と一体で引き抜くことになり、横浜市の工場で回収用の器具を製造し、取り扱いの訓練も行っている。
前もんじゅ所長の向和夫原子力機構敦賀本部長代理は「緊張感を持ち異常な状態を解消したい」と語り、11年度中に40%出力確認試験を始める姿勢を崩していない。
これに対し、原発反対県民会議の小木曽美和子事務局長は「計画通りに進めようという発想だから事故を起こす。もんじゅは動かせるわけがないし、動かしてはいけない」と厳しく批判する。
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福島第1原発事故は、もんじゅの今後にも大きな影を落としそうだ。
全国の原発は全ての電源を失った場合でも、炉心などの冷却機能を保てるかが課題となっている。冷却材にナトリウムを使うもんじゅは全電源喪失時、ナトリウムの特性を生かして自然循環の空気冷却で炉心を冷やす仕組み。原子力機構の弟子丸(でしまる)剛英技術部長は「2次冷却系は3ループある。1ループが残れば冷却は可能」とした上で、すべての配管が破断するとは考えていないと説明する。
ただ、県、敦賀市とも福島の事故を受けて慎重な姿勢だ。河瀬一治敦賀市長は「安全確保が第一。慌てて工程通り進めることではない」と遅れを容認する考えだ。
県は安全確保のための課題を検証し、必要な予算や人員を投入するよう文部科学省に要請。西川知事は4月、3電力事業者のトップに「安全対策が県民の納得を得る形で進まない限り、もんじゅなどの課題を前に進められない」と述べた。また、政府が核燃料サイクルの今後の方針を示す必要があると言及している。
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もんじゅの今後の工程は県会でも議論の焦点の一つになるとみられ、推進派だった自民党県政会は「万全の安全対策を取ることが前提」(前田康博会長)との立場。他会派には明確に反対を唱える議員もいる。
原発反対県民会議の吉村清代表委員は「ナトリウムの制御は非常に難しい。高速増殖炉は技術的な問題が大きく、世界中でやめている」と指摘。軽水炉でさえ想定外の大事故を起こした今、もんじゅの研究開発は即時中止すべきだと求める。
向氏は「エネルギー政策は冷静に考える必要がある。国が高速炉開発をやめる理由はない」とする。その上で「できるだけリスクをゼロに近づけ、県民にしっかりと説明し、理解を得るしかない」と語る。