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2011/05/23

首相は海水注入が再臨界を引き起こす可能性があると知人に言われたようで、海水注入を主張する官僚を怒鳴りつけたという。

海水注入中断「首相の言動」焦点 安易に外部意見頼り混乱?
2011.5.23 07:31
 東電福島第1原発への海水注入中断問題は、政府の原子力政策の根幹を担う内閣府原子力安全委員会の班目(まだらめ)春樹委員長が猛反発し、政府が発表済みの文言を急遽(きゅうきょ)訂正する異例の展開となった。放射能を封じ込める初動を妨げたのは誰なのか-。23日からの国会論戦や、25日にも発足する原発事故調査委員会で焦点になるのは、政府の意思決定の核心「首相のふるまい」となりそうだ。(阿比留瑠比)






 「いよいよ検証の時期に入った。ここは覚悟を決めなければならない」

 細野豪志首相補佐官は22日のフジテレビ番組で、海水注入中断問題に関連してこう述べた。省庁幹部も「いかに官邸が情報を止め隠してきたか。全部国民に克明に明らかにすべきだ」と事故調に期待感を示す。

 21日の政府・東電統合対策室の記者会見などによると、東電が3月12日午後7時4分に1号機に海水注入を始めたという情報は、官邸には届かなかった。

 だが複数の政府高官が証言する。「首相が『聞いていない』と激怒した」。首相は海水注入が再臨界を引き起こす可能性があると知人に言われたようで、海水注入を主張する官僚を怒鳴りつけたという。首相の問題行動は、部下である官僚や政府組織を信用せず、安易に外部に「セカンドオピニオン」を求めることだ。

 「首相が再臨界について心配していたのは事実だ」

 細野氏は22日の番組でこう認めた。細野氏らは首相が直接指示して、海水注水を中断させたとの見方は否定するが、首相の言動が東電側に「首相の意向」として伝わった可能性がある。

 「首相が誰かから『海水にホウ酸を入れてもしようがない。むしろ有害だ』と聞いた。原子力安全・保安院も東電も『ホウ酸が必要』と訴えたが…」と官邸筋は語る。

 結果的に3月12日午後7時4分の海水注入時や、同8時20分の注入再開の際には、中性子を吸収し再臨界防止に有効な「ホウ酸」は投入されなかった。首相が外部の声に頼り判断を遅らせたとの疑惑は絶えない。

 そもそも東電の清水正孝社長は5月2日の参院予算委員会で、3月12日の海水注入指示の時間を「真水停止(午後2時53分)の前」と証言。この日は官邸に東電幹部もいた。首相が本当に海水注入を知らなかったとしたら、初動時に、首相がほとんど状況把握できていなかったことになる。

 首相は、3月15日に自衛隊による空中放水の検討を指示する際の打ち合わせでも外部意見にこだわった。

 首相「ところでホウ酸は粉末で入れるのか液化して投入するのか」

 事務方「…」

 首相「答えられないのか。俺の知っている東工大(首相の母校)の教授と議論してから来い」

 班目氏の問題は「文言訂正」で一件落着を装ったものの、抗議を受ければその場で訂正できるほど、政府の報告書が裏付けのないものであることを世に示してしまった。首相の判断根拠は、さらに説明されなければならないだろう。



【用語解説】再臨界

 運転を停止した原子炉の燃料が、再び核分裂の連鎖反応「臨界」を起こすこと。連鎖反応では、燃料の原子核の分裂で放出された中性子が、別の原子核にぶつかり、次々に核分裂が起きる。冷却が進まず高熱で核燃料が溶け、燃料に含まれるウランの密度が高まり「臨界量」に達すると発生する場合がある。制御は非常に難しく大爆発を起こす恐れがあり、東京電力は原子炉を冷やすため注入する水に、中性子を吸収するホウ酸を加え、再臨界防止措置を取った。