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2011/04/02

欧州連合(EU)が福島原発に近い12都県の農産物に対し、放射線量が規定以下であることを示す証明書を要求しているが対応できる機関は決して多くなく、証明書は順調に発行できていない

食品の輸入禁止、東京港“外し”……海外で広がる貿易制限措置(1)
- 11/04/02 | 08:00
 福島第一原子力発電所の事故などを受け、海外各国で日本に対する貿易制限措置が相次いでいる。被災地農産品の禁輸のほか、東京など東日本の港湾に寄港しない、原発周辺の 航路を避ける動きも出ている。長期化すれば日本の貿易への打撃は甚大。政府の対策が求められている。

 ほうれん草などから放射性物質が検出されたことを受け、各国では日本産食品に対し輸入禁止や放射性物質に汚染されていないことを証明する公的文書の提出を求めるといった措置が広がっている。農林水産省によると、何らかの制限措置を導入している国は3月31日時点で23カ国に上る。


 主要な輸出先では、欧州連合(EU)が福島原発に近い12都県の農産物に対し、放射線量が規定以下であることを示す証明書を要求している。輸出側は測定機関で検査を受け、実際の数値を出す必要があり、日本貿易振興機構(ジェトロ)がホームページ上で主な検査機関を紹介するなどしている。だが対応できる機関は決して多くなく、証明書は順調に発行できていないとの声もある。

 食品だけではない。海外の海運会社の間では、東日本への寄港や原発周辺の航路を避ける動きが広がった。ドイツの海運大手ハパックロイドは31日までに、寄港を予定していた東京、横浜、名古屋、神戸の各港のうち、神戸以外の各港に寄港しない「抜港」を行った。デンマークの海運大手マースクは原発の周囲を港口禁止区域に指定。東京港への寄港は維持しているものの、放射線量などをほぼ1時間ごとに確認しているという。

 また、中国の主要船会社が東京港向けの貨物に対し、船混み割増料金(PCS)の上乗せを始めたという情報も出ている。業界関係者によると、外資船舶会社が東日本への寄港をちゅうちょするのは、乗組員の放射能汚染を不安視しているだけでなく、輪番停電が港湾の物流倉庫にも影響し食品などの荷が適正に保管されないと懸念している理由もあるという。

 東日本を回避した船は代替的に西日本へ寄港しているもようだが、関係する産業界では時間ロスやコストの増大といった負担が懸念される。日綜(上海)投資コンサルティングの呉明憲・副総経理は、「こういった混乱が長引けば、さまざまな産業のサプライチェーンが日本製品を敬遠する可能性もある」とみている。

 海外の反応を沈静化しようと日本政府は29日、ジュネーブで開かれた世界貿易機関(WTO)の貿易交渉委員会で、科学的根拠がない不当な禁輸をしないよう各国代表に呼びかけた。

 ただこれまでの海外の反応の中には、民間企業が経営リスクの回避策として自主的に導入しているものも少なくない。経済産業研究所の田中鮎夢研究員は、「日本政府としては今後、港湾の状況を海外の民間企業に情報提供するなど、従来の貿易政策と違ったアプローチが必要になるのでは」と指摘している。