2011年4月17日 00:06
【カリフォルニア州アプトス宮崎昌治】福島第1原発1―5号機の原子炉格納容器は「マーク1型」と呼ばれ、米ゼネラル・エレクトリック(GE)が開発した。GE技術者として原発の安全問題を担当していたデール・ブライデンバウ氏(79)は1976年、マーク1型の格納容器は小さく、圧力に弱い欠陥があるとして運転停止を求めた。だが、意見は聞き入れられず、氏はGEを去った。「今の事態は巨大地震と大津波が引き起こしたが、マーク1型の問題点が悪化させたことは間違いない」と語る。
福島第1原発では3月15日、2号機で爆発が起き、格納容器下部の圧力抑制プールが損傷した疑いが強い。事故現場では、格納容器や圧力容器が破壊され放射性物質が大量飛散する「最悪の事態」を防ぐため必死の冷却作業が続く。格納容器の強度は重大な問題だ。
ブライデンバウ氏の証言によると、76年1月、GEと原発を持つ全米各地の電力会社が重要な会議を開いた。両者はマーク1型の安全性について1年間、検討を続けており、ブライデンバウ氏はGE側の責任者だった。
「危険な状態になる可能性は極めて低く、このまま運転を続けたい」。こう主張する電力各社に、停止を求めるブライデンバウ氏は「それならGEはサポートを続けられない」と反論し、GE社内でも了解を求めた。だが、GE幹部の判断は違った。「停止したらGEの原発ビジネスは終わってしまう。止めずに安全対策を考えるべきだ」
マーク1型は当時、全米で18基が稼働、2基が建設中だった。結局、会議は「運転継続」との結論を出し、米原子力規制委員会(NRC)に報告。氏は20年以上勤めたGEを同僚技術者2人と辞めた。3人は今、米メディアで「GEスリー」と呼ばれる。
■当局内でも危険指摘
マーク1型の安全性に懸念が浮上したのは、その3年半前だった。NRCの前身、米原子力エネルギー委員会(AEC)委員のヘナワー氏が72年9月20日付で、マーク1型の安全性に強い懸念を示す文書を提出した。
「マーク1型の格納容器は小さいため圧力に弱く、水素爆発などの事故が起きれば破裂の可能性がある。製造を許可すべきではない」
加えて、格納容器を小さくした結果、配管や配線が無理な形で入っており、強度やメンテナンス作業に難点があるとも指摘。「小型化で製造費は安価になったが、利点より欠点が大きい」と結論付けた。ブライデンバウ氏も同じ考えだった。
だが、同25日付でAEC委員のヘンドリー氏が反論した。「提案は一理あるが、神格化された技術を現時点でひっくり返すことは、原子力発電を終わらせかねない」
電力会社やGE幹部と共通する考えがみえる。
■「人間の制御不可能」
当時の指摘を受け、その後マーク1型には格納容器の圧力を外に逃がす「ベント」が取り付けられるなど、改良が加えられた。GEはホームページで「マーク1型は40年間以上にわたる稼働で安全性と信頼性が実証されている」とする。
原発政策やビジネスの論理に、危険性への警告がかき消された面はないのか-。ブライデンバウ氏は「極めて可能性は低いが、危険がある限り運転は停止すべきと考えた。だが、停止すれば再開に膨大なコストと手間がかかり、これまでの判断の誤りを認めることにもなる」と振り返り、静かな口調で続けた。「人間は原子力を完全にコントロールすることはできない。それが、原発の幻想から覚めた私の結論だ」
=2011/04/17付 西日本新聞朝刊=