原発事故 そこが知りたい
大気中に放出された放射能 チェルノブイリの10分の1
汚染水 海に流出 土壌にも
東京電力の福島第1原発事故は「国際原子力事象評価尺度(INES)」の分類で、過去最悪とされる旧ソ連チェルノブイリ原発事故(1986年)と並ぶ最も重大な「レベル7(深刻な事故)」に暫定評価されました。大量の放射性物質(放射能)の放出はどれだけ深刻なのでしょうか。
Q 福島原発にあった放射能の総量は
A 東京電力の推定によると、原子炉が緊急停止した3月11日時点で、福島第1原発1~6号機の炉心と使用済み核燃料貯蔵プールに存在した放射性物質の総量は、7億2000万テラベクレルです。内訳は放射性の希ガスが1億テラベクレル、ヨウ素131などのハロゲン類が8100万テラベクレル、その他の核分裂生成物(ストロンチウム90、セシウム137など)が5億3000万テラベクレルです。とりわけ問題なのは、核燃料棒の損傷の可能性が指摘されている1~3号機の炉心、3、4号機のプールだけで計6億7000万テラベクレルにのぼることです。
チェルノブイリ事故では、環境中に計370万テラベクレルの放射性希ガス、ヨウ素、セシウムなどが放出されたとソ連政府が報告しましたが、その後の検討で、実際にはその数倍あったと推測されています。さらに数十倍~100倍以上の量が、事故発生時点で福島第1原発に存在していた計算になります。
Q どれくらい放出されたの
A 大気中に放出された放射能で農作物や水道水などに影響が出ています。全ぼうは明らかになっていませんが、ハロゲン類については総量の1%程度が環境中に放出されたと東電が推定しているほか、いくつかの試算があります。
大気中に放出された放射性のヨウ素とセシウムの量は、政府の原子力安全・保安院(経済産業省)や原子力安全委員会(内閣府)がそれぞれ別の方法で試算。それによると、ヨウ素131が13万~15万テラベクレル、セシウム137が6000~1万2000テラベクレルと推定されています。
チェルノブイリ事故での環境中への放出量は、保安院の資料によると、ヨウ素131が180万テラベクレル、セシウム137が8万5000テラベクレル。福島第1原発では、これまで大気中に放出された分だけで、チェルノブイリ事故の約10分の1に相当する量が放出されたことになります。
Q 海の汚染もひどいけれど
A 1~3号機タービン建屋地下などにたまっている高濃度汚染水については、日本科学者会議エネルギー・原子力問題研究委員会が試算。推定7万トンの汚染水に、半減期が長いセシウム137だけでも12万6000テラベクレルがあると見積もっています。
過去の深刻な海洋汚染としては、83年に英ウィンズケールの原子力工場から160テラベクレルの汚染水が放出された事故が知られています。日本科学者会議の同委員会は、福島第1原発にたまっている高濃度汚染水の0・1%(70トン程度)が海に流出すれば、ウィンズケール並みの海洋汚染が生じると警告しています。
このほか、大気中に放出された放射性の希ガス(キセノンやクリプトン)や、海に流出したり敷地内の土壌に染みこんだ放射性物質がありますが、その量はわかっていません。
ベクレル 放射能の強さを表す単位で、1秒あたりに崩壊する原子核の数。テラは1兆倍。