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2011/04/21

「東海・東南海・南海地震が連動した場合、西側の日向灘まで震源域が延びるパターンがあることが分かってきた」

東海・東南海・南海地震で震源域は日向灘に延びる恐れ
2011/4/21 7:00
 多数の想定震源域が連動して、国内観測史上、最大のM(マグニチュード)9.0を記録した東日本大震災。今後、起こり得る東海・東南海・南海地震も連動する可能性が高いと専門家から指摘されているが、その連動する距離が長くなる可能性が最近の研究から明らかになった。





 同地域での地震の履歴を追うと、1605年の慶長地震(M7.9)や1707年の宝永地震(M8.6)では三つの地震が連動。1854年には安政東海地震(M8.4)の32時間後に安政南海地震(M8.4)が、そして1944年には東南海地震(M7.9)の2年後に南海地震(M8.0)が発生した。江戸以降、100~150年の間隔で三つもしくは二つの地震が連動しており、次も同じような連動が想定されている。

「東海・東南海・南海地震が連動した場合、西側の日向灘まで震源域が延びるパターンがあることが分かってきた」と、東京大学地震研究所の古村孝志教授は話す。古村教授は文部科学省の研究委託事業で、三つの地震が連動する場合の被害予測の研究に携わっている。

 高知大学理学部の岡村真教授らの研究では、大分県佐伯市の沿岸部にある龍神池の地質調査で、400~600年の間隔で押し寄せた巨大な津波による海の砂の堆積を確認している。この津波が龍神池まで押し寄せるメカニズムは、従来の東海・東南海・南海地震の想定震源域では説明できなかった。

 しかし、「日向灘まで震源域を延ばして発生する津波をシミュレーションすれば、龍神池での津波による堆積を説明できる」(古村教授)。プレート間の固着域のひずみの解析や低周波微動の調査など、この仮定を裏付ける研究成果も出ている。


■滑り量次第で巨大地震に

 研究成果は、東海・東南海・南海地震が連動して起こる何回かに1回の割合で、日向灘まで震源域が延びていたことを指す。前述したなかでは、1707年の宝永地震がそれに当たるとされている。

 「宮崎県の沿岸などでは、現在の想定よりも長周期の地震動が発生する恐れがある」と古村教授は分析する。また、九州太平洋沿岸の津波高は従来の想定で2m付近だったのが最大で8m級に、高知県土佐清水市での津波高は従来の想定で6m級だったのが10m以上になる可能性がある。さらに、瀬戸内海まで津波が入り込む恐れもある。

 「これらの津波高は、古文書などで得られた宝永地震時の津波高のデータとほぼ一致する」(古村教授)。

 東海・東南海・南海地震の連動で日向灘まで震源域が延びた場合、地震の規模を表すマグニチュードはどの程度になるのか。

 海洋研究開発機構(JAMSTEC)地震津波・防災研究プロジェクトの金田義行プロジェクトリーダーは「震源域の長さは駿河湾から日向灘までの約700km、幅は低周波微動の調査で約200kmと想定はできても、滑り量によってマグニチュードは大きく変動する」と話す。

 1605年に起こった慶長地震では、南海トラフの海溝寄りが滑ったことで大きな津波が発生した。起こり得る最悪のシナリオを想定すると、「宝永地震と慶長地震のような特徴を持つ同様の地震が同時に起こった場合は、滑り量次第で巨大地震が発生することもあり得る」(古村教授)。

 東日本大震災でも大きな滑り量が確認されている。海上保安庁の発表によると、震源のほぼ真上の宮城県沖の海底が、東南東に約24m移動したことが分かっている。

 「日本海溝ではプレート間の固着が小さく、常時、滑っている領域では地震エネルギーをため込む仕組みがないと考えられていた。しかし実は、約千年かけて少しずつエネルギーをため込んでいたようで、東日本大震災ではそれが開放されてM9の巨大地震が発生し、大きな海底変動によって大津波が発生した」と金田プロジェクトリーダーは推測する。


■海底に計測器を置いて警報をより早く

 来るべき東海・東南海・南海地震に備えて、JAMSTECは地震・津波観測監視システム(DONET)の整備を推進している。東南海地震の震源域に当たる紀伊半島沖の熊野灘に、高精度の地震計や水圧計(津波計)からなる観測点を海底に設置している。現在は11カ所に設置済みで、2011年度末までに全20カ所の設置を完了する予定だ。

 DONETとはリアルタイムで地震や津波をモニタリングするシステムだ。験潮所やGPS(全地球測位システム)波浪計などと比べて沖合にあるので、より早期に津波などの情報を得ることができる。「場所によって違うが、三重県尾鷲市ではこれまでより5~10分早く検知できるようになる」(JAMSTECの金田プロジェクトリーダー)。

 東海・東南海・南海地震は、東日本大震災に比べて震源が陸地に近いことが予想されるので、地震直後に巨大な津波が来襲する可能性が指摘されている。沿岸の住民にとって、少しでも早く津波情報を知ることができれば、それだけ助かる可能性は高まる。

 さらにDONETを使用して「データ同化」という予測の高精度化を試みる動きもある。

 「天気予報では、予測すれば次の日に結果が分かる。そのため予測と実際の結果の違いを修正し、長期間にわたり調整すれば予測の精度が向上する。同様のことを地震でも開発中だ」と金田プロジェクトリーダーは話す。

 地震の発生予測と地震が実際に起こった結果を比較するのではなく、地震発生予測から推定する地殻変動量などと観測結果との違いを修正して、長期間にわたり調整することで予測精度を深める。DONETは、陸地で観測できないような小さな地殻変動などを検知することができるので、それを利用する。

 JAMSTECは、南海地震が起こるとされる震源域にも同様のシステム(DONET2)を構築する予定だ。2011年度からプロジェクトが始まっており、29カ所に設置する方針だ。

 「東海・東南海・南海地震の連動で注目すべきなのは、どのような時間差で連動するかという点だ。例えば、東南海・東海地震が先行した場合、南海地震がいつ起こるのか。数時間、数日、数カ月あるいは数年後か。それを少しでも見極めるために『データ同化』の開発とともに、震源域で進行する現象を精緻に観測できる海底ネットワークDONETの整備が急がれる」(金田プロジェクトリーダー)。












高知新聞 (2006年5月10日朝刊)
巨大南海地震に周期性 岡村・高知大教授ら調査
 およそ100年に1度のペースで発生する南海地震のうち、特に巨大な地震は平均500年周期で繰り返されていることが9日までに分かった。高知大学理学部の岡村真教授らの調査チームが、大分県で行った堆積(たいせき)物調査から割り出した。前回の巨大南海地震は300年前。同教授は「次の南海地震が小さいのか大きいのかは、非常に大事な問題。その手掛かりになるかもしれない」と話している。

 堆積物の調査が行われたのは、大分県佐伯市米水津の龍神池(約1万5000平方メートル)。岡村教授らの調査チームは、一昨年から昨年にかけてこの池で掘削調査を行った。

 龍神池は海とつながっており、周りでは過去の南海地震による津波の跡が確認されている。同教授らは津波が池にまで押し寄せた場合、泥の層の間に津波が運んだ砂の層ができているはずだと推測。独自に開発した機械(バイブロコアリング)で厚さ5・5メートル分の堆積物を採取、砂の層に混じった葉や貝殻の炭素から年代を割り出した。

 調査結果は予想以上にクリアだった。岡村教授によると、「3500年前までの履歴が連続的に層になり、ほとんど完ぺきに残っていた」という。その理由は龍神池の立地条件。同教授は「これまで人の手が入っていない半島の先にあったため」と説明する。

 津波で形成されたとみられる砂の層を詳細に分析した結果、1707年に起きたマグニチュード(M)8・6の「宝永南海地震」と1361年の「正平南海地震」、684年の「天武南海地震」に相当する履歴があることが判明。さらに古い4つの地震の履歴も見つかり、最も古いものは紀元前1300年―1500年の津波の跡だった。

 半面、堆積物にM8・4の「安政南海地震」やM8・0の「昭和南海地震」の履歴はなかった。

 高知大の松岡裕美助教授によると、「天武南海地震」は「高知がかなり水没し、地震後に東の方で火山が噴火したとされている。大きな地震で、宝永の南海地震と同規模だと言われてきた」。

 こうしたことから、調査チームは「『宝永』級の巨大地震だけが堆積物に津波の履歴を残した」と推論。宝永以前の計7つの巨大地震によるとみられる津波の履歴を分析した結果、平均500年に1度の間隔で残っていたことが分かった。つまり、「南海地震は約100年に1度だが、その中に巨大な南海地震が周期的に交じる」という構図だ。

 3500年という長い期間で周期性が明らかになった意味は大きい。

 岡村教授は「次の地震が宝永規模なのか昭和規模なのかは非常に大事。昭和だったら死者は何十人単位かもしれないが、宝永が来たら何千人規模になるかも」と指摘。「300年とか500年という周期は数千年という歴史がないと判断できないが、それが証明できそうなところまできた」と話している。

 【写真説明】龍神池で採取した堆積物。中央の黒っぽい部分が巨大津波で堆積した砂の層







東京大学地震研究所 地震研究所談話会 第837回 (2006年 3月)
大分県南部沿岸域の湖沼堆積物に記録された過去3500年間の巨大津波







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