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2011/04/06

「放射性セシウムは半減期が30年と長い。水産庁は魚の体内からは50日で半分が排出され蓄積しないとするが、自然界ではどうなるか分からない。食物連鎖で濃度が高まる可能性は否定できない」とし「人体への影響は現状では判断できない」

原発汚染水放出…専門家は警告「このままでは危険」
 東京電力は5日、福島第1原発事故で低濃度の汚染水を海に放出する作業を続け4200トン以上を流した。2号機取水口付近で採取した海水からは法令濃度の750万倍の放射性ヨウ素を検出。北茨城市近海で採取したコウナゴ(イカナゴの稚魚)から暫定基準値を上回る放射性物質が検出された。海は、魚は大丈夫なのか。専門家も「このままでは危険」と警告している。



 経済産業省原子力安全・保安院によると、1~3号機のタービン建屋などにたまっている高濃度の放射性物質を含む水は推定計約6万トン。東電はこれらの水の保管先を確保するため、敷地内の「集中環境施設」や5、6号機の建屋周辺の井戸にたまった汚染水を放出する作業を続行。総計約1万1500トンを放出する計画で、5日午後の推定で集中環境施設から4200トン以上、井戸から約30トンを流した。

 東電は、海に流すのは「低レベル」の汚染水で魚などを食べ続けても人体への影響は小さいとしているが、含まれる放射性物質の濃度は最大で濃度限度の500倍。一方、2号機取水口付近で2日に採取した海水からは法令の濃度限度の750万倍に上る1立方センチ当たり30万ベクレルの放射性ヨウ素131を検出した。

 ヨウ素の濃度限度は1リットル当たり40ベクレル。水道水の場合、国が定める摂取制限の暫定基準値は同300ベクレル。2日採取分から検出されたヨウ素を1リットル当たりに換算すると3億ベクレルとなり、数値の高さが歴然。京都大原子炉実験所の高橋千太郎教授(放射能影響科学)は「今までよりもかなり高濃度。高濃度汚染水の流出をすみやかに止めなければならない」と指摘した。

 また、茨城県の漁協は北茨城市の近海で4日に採取したコウナゴから、暫定基準値の1キロ当たり500ベクレルを上回る526ベクレルの放射性セシウムが検出されたと明らかにした。魚介類が基準値を超えたのは初めて。

 高橋氏は「魚は一定の場所にとどまっているわけではなく海流などにもよるが、小さな魚に影響が出ているので、汚染は大きな魚に広がっていくだろう」と説明。東京海洋大の水口憲哉名誉教授は「放射性セシウムは半減期が30年と長い。水産庁は魚の体内からは50日で半分が排出され蓄積しないとするが、自然界ではどうなるか分からない。食物連鎖で濃度が高まる可能性は否定できない」とし「人体への影響は現状では判断できない」と話した。

 水産庁によると放射性物質は海中で希釈、拡散され濃度が非常に薄くなり、最終的には海底に沈殿していく。漁場への影響に関し、水産総合研究センターの中田薫氏は「福島県沖には岩手県から千葉県銚子沖へと南に向かう津軽暖流が流れており、福島第1原発より北には放射性物質が流れる可能性は低い」と説明。水産庁は「安全性に問題のある魚は出回っていない」としている。

 ≪薬剤投入で“水漏れ”減少か?≫約6万トンの汚染水について、東電は極めて高濃度の2号機の汚染水を2号機の復水器に約3000トン入れるほか、約3万トンを集中環境施設に移す。残りは静岡市から提供された人工の浮島「メガフロート」や仮設のタンクに収容する方針。東電は2号機取水口そばにある作業用の穴(ピット)の下などに石を敷き詰めた「砕石層」に汚染水が入り込み、亀裂から漏れていることを確認。流出を防ぐために石の隙間を埋めるため「水ガラス」という薬剤と、硬さを調整する別の薬を混ぜて注入した。「流量は減少したように見えた」として、さらに監視を続ける。また、政府が実行方針を固めた原子炉建屋の特殊シートによる遮蔽(しゃへい)は、着工が早くても6月以降、完成は最短でも9月となる見通し。事故対処の長期化は必至だ。