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2011/04/08

昨年6月にまとめたエネルギー基本計画では、2020年までに原発9基を新増設し、稼働率を65.7%(09年度)から85%に高めることで、目標を達成できるとしていた

鳩山前首相の置きみやげに苦悩する民主党
2011年04月05日 08時00分
 環境省の南川秀樹事務次官は3日、タイのバンコクで開かれた気候変動枠組み条約特別作業部会で会見し、福島第一原発の事故を受け、2020年までに温室効果ガス排出量を1990年比で25%削減するの目標値を見直す可能性を示した。しかし、この発言に宮城県入りしている松本龍環境大臣(59)は「温暖化対策に取り組んでいくという決意に変わりはない」と述べ、すぐさま事務次官発言を打ち消した。

 永田町関係者はこう話す。「福島第一原発事故を受けて、世論は反原発へと流れ始めている。現在建設中や計画中の原発は中止や変更になる可能性が出てきたなかで、それでは、何で発電するのかという問題になる。原発に頼れなくなる以上、火力発電の稼働量を上げていかなくてはならないが、ネックになるのは2009年の国連会議で当時の鳩山由起夫首相が宣言してしまったCO2の25%削減目標なんです。政権与党なので、いまさらできませんとは言えない状況ですね」


 発表当初、民主党内からも「鳩山首相の人気取りパフォーマンス」だと揶揄された削減目標だったが、この東日本大震災で「あのとき、あんなこと約束しなきゃ良かったのに…」という声まで出ているという。今回、事務方からの声が挙がったということは、民主には任せていられないという官僚の思惑も見え隠れする。民主党も本音はCO2削減目標なんて撤回したいところだろうが、早計に判断するとまた「マニフェスト破り」と批判されかねないのが頭痛のタネだ。今となっては鳩山前首相の「負の置きみやげ」が恨めしいに違いない。

http://npn.co.jp/article/detail/59098910/






揺らぐ「温室ガス25%減」 原発事故で達成困難に
2011年4月8日2時30分
. 東京電力の福島第一原発事故を受け、「2020年までに温室効果ガスを1990年比で25%削減する」という政府目標が揺らいでいる。二酸化炭素(CO2)を排出しない原発に依存した温暖化対策が難しくなったためだ。一方、民主党内で7日、再生可能エネルギー推進チームの発足が決まるなど見直しに慎重な声もあり、目標が全面見直しに進むかは不透明だ。

 バンコクで3日から開かれている地球温暖化対策の国連会議。各国は自国の削減目標を、いかに達成するかをアピールした。しかし、日本政府代表は「地震が温暖化政策に与える影響を見極めるのは時期尚早」と述べるにとどめ、25%目標には触れずに終わった。南川秀樹・環境事務次官は記者団の取材に「25%も議論の対象になる」と見直しを示唆した。

 政府が目標に触れられなかったのは、これまで温暖化対策の切り札と位置づけてきた原発の新増設の見通しが立たなくなったためだ。昨年6月にまとめたエネルギー基本計画では、2020年までに原発9基を新増設し、稼働率を65.7%(09年度)から85%に高めることで、目標を達成できるとしていた。

 環境省の試算によると、基本計画がうまく進まず新増設が2基、稼働率が75%にとどまり、その分を火力発電所で代替した場合、25%削減に5.2ポイント届かなくなる。新増設がゼロで、福島第一原発6基を廃炉にした分を火力で補うと、目標を約8ポイント下回るという試算もある。「だれもがもう無理な目標だと分かっている」(経済産業省幹部)との声が漏れる。

 ただ政府・民主党内には、原発をすべて火力発電で代替することに抵抗感もある。

 昨年3月に小沢鋭仁環境相(当時)が25%削減に向けて打ち出した「中長期ロードマップ」では、エネルギー供給に占める太陽光や風力など再生可能エネルギーの割合を20年までに1割以上にするとしていた。

 原発事故を受け小沢氏は「短期的には火力が必要だが、化石燃料への依存から脱却する時だ」として、割合を引き上げる必要性を強調。民主党環境部門会議は7日、再生可能エネルギー推進ワーキングチームを置いて、普及策を検討することを決めた。菅直人首相も、被災地復興に向けてバイオマスによるエコタウン構想を打ち上げている。

 原発に頼らずに削減目標を達成するのは不可能なのか。環境NGO気候ネットワークは、原発に頼らずに25%削減する提言を09年秋にまとめている。運転開始から40年を過ぎた原発から順次廃止し、火力発電は石油や石炭よりもCO2排出量が少ない天然ガスを増やす。国内排出量取引などで化石燃料を抑え、再生可能エネルギーを普及させる。

 平田仁子東京事務所長は「25%削減目標は、温暖化で起きる大災害を防ごうと政治主導で決まったもの。原発がなくても、達成する方法はいくつもある」と訴える。

 風力による発電コストは火力に肩を並べるほどになってきているものの、普及には課題も多い。政府・民主党はエネルギー需給や国民の議論を見ながら、目標の見直しについて見極める方針だ。(山口智久、バンコク=古田大輔)







温室ガス削減「見直し」 外交戦略 軌道修正へ
2011年4月5日 朝刊

 枝野幸男官房長官は四日の記者会見で、二〇二〇年までに温室効果ガス排出量を一九九○年比で25%削減するとの政府目標を見直す可能性に言及した。福島第一原発事故で原子力政策を根本的に見直さざるを得なくなったためだが、この目標は国際公約でもある。東日本大震災は政府の外交戦略にも影を落としている。   (城島建治)

 枝野氏は記者会見で、温室効果ガス排出量の目標に触れ「25%削減にとどまらず、日本が抱えるあらゆる課題について、震災の影響を踏まえて検討しなくてはいけない」と表明。目標を推進する立場の環境省も、南川秀樹次官が三日に再検討はやむを得ないとの認識を示した。

 25%削減は、民主党が○九年の衆院選マニフェストに盛り込んだ重要政策。鳩山由紀夫前首相が同年九月にニューヨークで開かれた国連気候変動サミットで表明し、国際公約となった。

 しかし、今回の事故で福島第一原発が廃炉になるだけでなく、国民の原発への不信感が高まり、増設や休止中の原発の運転再開は難しくなっている。政府も原発増設を盛り込んだエネルギー基本計画を白紙を含めて見直す方針だ。

 当面、火力発電所など温室効果ガスを排出する化石燃料に頼らざるを得ず、国際公約である削減目標の見直しは避けて通れなくなった。温暖化防止で国際社会をリードする外交戦略も再構築を迫られる。

 原発事故と大震災を受け、政府は環太平洋連携協定(TPP)交渉参加問題で六月までに出すとしていた結論の先送りも検討。TPP参加は菅政権の外交戦略の柱の一つだが、大震災で打撃を受けた農家に追い打ちをかけかねないだけに、先行きは険しい。

 さらに、政府・民主党内では復興財源を捻出するため、政府開発援助(ODA)の削減論も出始めた。

 もともとODAは日本の平和外交を支える重要な“武器”にもかかわらず、財政難で年々減少。戦略的、効果的な援助に向け、ODAの在り方を見直す必要性が指摘されていた。大きく削減されることになれば、見直しの動きに拍車がかかることになる。