2011.3.31 00:37
北沢俊美防衛相は30日の参院外交防衛委員会で、米軍無人偵察機グローバルホークが東京電力福島第1原子力発電所の上空から撮影した映像について、「公開に主眼を置いているのではない」と述べ、映像を公開しない考えを示した。在日米軍から軍事機密にあたらない映像などの公開にも否定的な立場を伝えられたことも理由とした。
日本側は17日から同機が撮影した映像などの提供を受けている。映像は東京・市谷の防衛省に設けた日米共同調整所や首相官邸に送られ、原発事故への対応策の検討に活用されている。
米軍は当初、自国のためのデータ収集を目的としていたが、防衛省・自衛隊内で高度な情報が得られるため映像提供を求めるべきだとの声が高まり、米側に要請。さらに、映像公開により、災害派遣でも同機の偵察能力が有効であることを国民に示し、同機の自衛隊への導入に弾みをつける狙いもあった。
だが、北沢氏は「(同機の)映像が特段優れているわけではない」とも答弁し、映像の有用性を否定した。昨年12月に閣議決定した「防衛計画の大綱」で導入が見送られたのも、「政務三役が消極的だった」(防衛省幹部)のが一因とされている。
米軍無人偵察機「グローバルホーク」が原発上空で撮影した“非公開画像”とは
[2011年04月18日]
■高度1万8千mからクルマのナンバーが読める
いまだ予断を許さない状態の福島第一原発。震災の約1週間後の3月17日から、その上空を米空軍の無人偵察機「グローバルホーク」が飛行し、映像を含むさまざまなデータを収集していたことは広く報じられている。
正式名称は「RQ-4 グローバルホーク」。DARPA(米国防先進研究計画局)の主導でノースロップ・グラマン社が開発し、1998年2月28日にカリフォルニア州のエドワーズ空軍基地で初飛行した。軍事評論家の野木恵一氏が解説する。
「グローバルホークは、実用試験段階であったにもかかわらず、2001年からのアフガニスタン紛争でも使用された高高度長時間滞空型の無人機(UAV)。36時間以上の連続滞空が可能で、ターボファンエンジン1基を背部に搭載し、膨らんだ前部には衛星通信アンテナが収容されるなど、現在運用されているUAVとしては最大級かつ最も高性能です」
グローバルホークの搭載カメラの映像は高度1万8千mからでもクルマのナンバープレートを読み取れるほど精密で、しかも今回は地上100m程度まで降下していたとされる。となれば、原子炉の損傷具合、冷却水の水位などのデータがリアルタイムで収集されていたのは間違いない。
元米陸軍大尉で軍事コンサルタント飯柴智亮氏はこう語る。
「搭載されている機器類を見れば、どんな情報が収集されたのかはだいたいわかります。SAR(合成開口レーダー)による地殻変動の観測データに加え、EO/IR(電子光学/赤外線)センサーが原発の熱源の位置や温度などもとらえていたはずです。これらは隠す必要はまったくないので、日本側に提供されたと見るのが妥当です」
グローバルホークの映像について、米軍側は「(公開は)日本側の判断に委ねる」としており、日本政府も一度は公開する方針を固めたとされていた。ところが、3月30日には一転して北沢俊美防衛大臣が「公開に主眼を置いているものではない」と“非公開宣言”をしてしまったのだ。
北沢大臣は「映像が特段優れているわけでもない」とも語ったが、そんなことはありえない。防衛省に非公開の理由を問い合わせたところ、以下の回答が返ってきた。
「グローバルホークの映像については、提供元である米国との関係もあることから、防衛省が独自の判断でこれを公開することはできません。ただし、原発に関する防衛省のこれまでの判断、評価には当然、反映されています」
つまり、非公開を決めたのは防衛省というより官邸、政府の意向ということだろうか。
■“公開したくないもの”とは、いったいなんだったのか?
原発政策に携わった経験のある経済産業省関係者はこう語る。
「やはり、常識的に考えれば“公表したくないもの”“公表してはいけないもの”と判断された可能性は高い。すでに官邸が機能不全に陥っているわけですから、本来なら広く情報を公開し、内外を問わず専門家の力を借りるべきときなのですが……」
では、政府が“見せたくないもの”とは、いったいなんなのか? 考えられるのは、これまでの公式発表よりもはるかに深刻な事態が確認されたという可能性だろう。建屋については激しい損傷具合がすでに明らかになっているから、おそらくそれは格納容器や圧力容器の状態と、それに伴う燃料棒の損傷具合にかかわるものということになる。米軍関係者がこう警告する。
「グローバルホークのセンサーが部分的に異常な高熱を探知したのかもしれません。それならば日本政府がパニックを避けるために隠していた可能性は十分にある。また、濃度の高い放射能が検出されたことも考えられ、いずれにしてもよくない状態であることは間違いないでしょうね」
グローバルホークの映像のみならず、東京電力や日本政府の情報公開が遅々として進まないなか、欧米の専門家はさまざまなデータから事態の深刻度を踏み込んで分析している。
例えば、4月1日には米エネルギー省のスティーブン・チュー長官が、『ニューヨーク・タイムズ』の取材に対して「ひとつの原子炉の圧力容器が70%損傷しており、別の原子炉の核燃料棒は最大で3分の1が損傷している」と断言しているし、フランスの世界最大の原子力産業複合企業アレヴァの関連企業の関係者も、「一部溶融した核燃料棒の温度は最高で2700℃に達していた」と言及している。
これらの分析について、前出の米軍関係者も次のように補足する。
「グローバルホークのセンサーの精度なら、2700℃の観測は可能です。しかも、エネルギー省の核情報室ではそれ以外にも複数のソースから情報を集めているはずですから、分析はかなり正確なものだと思います」
こうしたデータを機能不全に陥った官邸が独占していたとすれば、それは大きな損失だったと言うしかない。
だが、それでも「パニックを防ぐ」というのが非公開の理由ならまだマシだ。元航空自衛隊南西航空混成団司令で、軍事評論家の佐藤守氏は次のように指摘する。
「民主党政権は昨年、防衛省が検討していたグローバルホークの導入を『政務三役が消極的だった』という理由をつけて見送っている。それが大活躍してもらってはメンツが潰れるのでしょう。政府はいまだにアメリカの協力を仰ぐ場面を最小限に抑えようとしているように見えます」
今や、政府や東電の公式発表に対する国民の信頼は完全に失墜している。「米軍の分析はこうでした」と、そのまま公表してもらうのが一番安心できるのだが……。
(取材・文/世良光弘&本誌軍事班 取材協力/小峯隆生)