範囲拡大「官邸は危機感薄い」
東日本巨大地震で被災した福島第一原子力発電所での事故をめぐり、政府・与党は12日、対応に追われた。1号機で起きた爆発についての詳しい説明が、発生から約5時間後になるなど対応の遅れが目立ち、与野党から危機感の薄さを指摘する声が続出している。
「福島の原子力発電所に出かけて来る。現地の責任者と話をして状況を把握したい」
菅首相は地震発生から一夜明けた12日早朝、首相官邸で記者団にこう述べた後、ヘリコプターで福島第一原発を訪れ、約50分間視察。自ら陣頭に立ち、安全性をアピールする狙いがあったと見られるが、東京電力幹部らが随行して逐一説明して回ったため、「肝心の放射能漏れなどの安全対策に集中すべき力がそがれた」との指摘も出ている。
同日午後に首相官邸で行われた与野党党首会談の冒頭、首相は自らの現地視察について報告し、「最悪でも放射能が漏れることはない」と述べたという。
第一原発1号機での爆発は、党首会談の最中だった。
共産党の志位委員長は記者団に「党首会談をやっている時に重大な爆発が起こっても、政府は知らせない。責任のない姿勢だ」と批判した。与党である国民新党の下地幹事長さえ、会談後、民主党幹部の国会内の部屋に駆け込み、「首相が会談で言っていたことと違うじゃないか」と不信感を示した。
広報のあり方でも問題を残した。
1号機での爆発を受け、枝野氏はまず午後5時45分から記者会見したが、爆発原因や、原子炉の破損の有無については「専門家を交えて分析中だ」との説明を繰り返すだけ。首相と枝野氏が事故について詳しく説明したのは、午後8時半過ぎになってからだった。
枝野氏は「間違った情報を早く出すことによる過ちは許されない」と述べたが、パニック防止に配慮するあまり、何が起きているのか、住民はどう行動すべきかなどについての専門的な情報をほとんど発信できず、対応が後手に回った印象は否めない。
実際、避難指示範囲は、11日は原発の周辺3キロ・メートル圏内だったが、12日は10キロ、爆発を受けて20キロと次々拡大した。政府高官は「官邸は最悪のケースを想定して動いておらず、危機感が薄い。耳当たりのいい情報ばかり発信し、住民はかえって混乱している」と酷評した。
また、政府が、新興国など海外市場へのインフラ(社会基盤)輸出を成長戦略の柱に据え、世界有数の技術力を誇る原発建設を重視していることが影響し、「廃炉覚悟の対応にためらいがあったのではないか」との見方も一部にある。
(2011年3月13日 読売新聞)
被災地視察・党首会談… 首相、震災対応追われる
2011年3月12日21時34分
菅直人首相は12日、東日本大地震による被災者の救援態勢づくりや被災情報の収集に追われた。朝からヘリコプターで上空から被災状況を確認し、東京電力福島第一原子力発電所も視察。その後、同発電所で爆発が起き、夜には記者会見を開いて対策に全力を尽くす姿勢を強調した。野党は協力姿勢を示すものの、原発をめぐる対応には不満も漏れる。
首相は午前6時すぎ、視察出発を前に「政府として全力を挙げて救済、復興に取り組んでいる。私はこれから福島原子力発電所に出かけ、現地の責任者ときちっと話をして状況を把握したい」と記者団に語った。
午前7時すぎには福島第一原発に到着。防災服にスニーカー姿でマイクロバスに乗り込み、敷地内を視察した。その後、重要免震棟に移り、東京電力側から被災状況の説明を受けた。
首相は現地で「住民のことを第一に考えて、しっかりと早め早めの対応をお願いしたい」と東電側に語った。その後、再びヘリコプターに乗り、宮城県沿岸部の被災地を上空から視察した。
首相官邸は前日から夜通しで原発をめぐる対応に追われた。菅内閣は11日夜、原子力災害対策本部を開き「原子力緊急事態宣言」を発令。12日朝には福島第一原発から10キロ以内の住民の圏外への避難を指示した。福島第二原発についても半径3キロ以内の住民に避難を、3~10キロ以内の住民に屋内退避を指示した。
12日朝には、緊急災害対策本部と原子力災害対策本部を相次いで開催。松本龍防災担当相は会議後、記者団に「食料、仮設トイレ、灯油、ストーブ、水をどう調達するかが一番だ」と語った。政府調査団を宮城、福島、岩手各県に派遣し、現地調査を始めた。
首相は午後、与党の亀井静香・国民新党代表のほか、谷垣禎一・自民党総裁、山口那津男・公明党代表ら野党7党の党首や幹部を官邸に招いて与野党党首会談を開いた。首相は冒頭、「今日一日が救助という意味では最大の一日ではないかと考えている」と指摘。さらに福島第一原発について「現在、半径10キロ圏内の住民避難をほぼ完了した。1号炉が微量の放射能を放出あるいは流出している状況であり、そういうことに備えてのことだ」と説明した。
被害のあまりの大きさに、菅政権に解散か退陣を求めてきた野党や民主党内の反主流派も、震災対応に追われる菅政権の批判を控えるしかない状況だ。公明党幹部の一人は「解散なんてできなくなった。今やったら大変なことになる」。12日昼の自民党の対策本部でも「予算を丸のみし、後から足らざるところを補うという覚悟で判断して欲しい」(岩屋毅衆院議員)と、政府に協力するよう求める声が上がった。
首相はこれまで与野党の協力を訴えてきたが、ほとんど見向きされてこなかった。大震災をきっかけに初めて歩み寄りが実現した形だ。
とはいえ、福島第一原発をめぐる首相官邸の対応には批判がくすぶる。自民党幹部の一人は「菅政権の認識は甘すぎる。対応が24時間遅い」といら立ちを隠せない。震災対応が落ち着いた段階で一挙に政権批判が噴出する可能性もある。