東京電力が14日から始めた「計画停電」は、一般家庭や企業などの顧客との取り決めである「電力供給約款」を根拠に行われている。
れに対し、第1次オイルショック時の1974年1月には、政府が電気事業法27条に基づく強制的な電力の使用制限を行った。電力の供給不足への対応には国も大きな責任を負うはずだが、今回は東電と顧客という民間同士が決めた約款に危機対応を委ねた形だ。事前の説明が二転三転するなどした背景には、菅政権の無責任な対応もある。
電気事業法は、東電などの各電力会社に、顧客に対して安定した電力を供給する義務を課している。しかし、今回のように地震で発電所が多く被災した場合などには、供給が難しくなる事態も想定される。
そのため、電力各社の契約約款は、不測の事態による「非常変災」などの際には、供給を止めることができるとの規定を盛り込んでいる。電力会社だけの判断ででき、政府の認可などは不要だ。
一方、電気事業法も、電気の供給不足が国民生活に悪影響を及ぼす場合などには、国が電気の使用を制限することができると定めている。74年の第1次オイルショック当時は電力や石油の使用量を15%削った。
しかし、多くの発電所が止まった今回は、ピークの電力需要の予測に対して、15%を大きく上回る削減が必要だ。企業などの大口電気使用者だけが対象だった74年当時と違い、一般家庭も対象にせざるを得ない。このため、実施しやすい東電による計画停電に委ねたとの見方がある。
(2011年3月15日02時22分 読売新聞)
http://www.yomiuri.co.jp/atmoney/news/20110314-OYT1T00981.htm
東日本大震災:初の計画停電 東電、甘い危機管理 「実施」「回避」で迷走
◇大規模運休 政府は「想定外」
東京電力は14日、同社初となる計画停電を一部地域で行ったが、実施時間やエリアに関する説明が二転三転するなど迷走。鉄道の運休が予想以上にのぼるなどし、経済活動や市民生活を大きく混乱させた。
計画停電は当面、4月末まで続く見通し。東日本大震災の影響で止まっている企業の生産活動が再開されれば、電力需要が増えて、14日は回避された地域でも計画停電が常態化する可能性がある。その後は、冷房需要が増える夏も控え、東電や政府には経済や市民活動への影響を最小限に抑える努力が厳しく求められそうだ。
「速さだけでなく、誤った情報を出さないように心がけている」。14日午後4時前、約1時間後に迫った計画停電の実施を発表する会見で、東電担当者は苦しい弁明に終始した。具体的に地域や時間を決めて停電に踏み切るには、最新の電力需要の実績を踏まえなければならず「直前にならないと停電するかどうか決められない」(関係者)という事情はある。
しかし、東電の対応ぶりは、情報発表が遅い上、不正確な内容も相次ぐなど迷走を重ね、企業活動や市民生活に無用の混乱を及ぼした。
具体的に検証すると、東電は13日夜、計画停電の方針を発表したが、その際、配布した対象地域リストは、輪番で停電になる可能性がある目黒区や世田谷区などが抜け落ちていた上、時間帯も間違っていた。
このリストでは、東京23区の停電対象地域は「荒川区」だけとされていたため、この情報を信じ、電車の大幅な乱れはないと判断して、14日朝に通勤難民化したサラリーマンらも多かった。対象リストは14日朝までに複数回修正されたが、その後もミスが見つかるなどずさんな対応が繰り返された。
さらに東電や政府が「電力需要が供給能力を上回らない場合、停電を極力回避する」との基本方針をきちんと事前に説明しなかったことも、混乱に輪をかけた。
東電は14日午前6時20分から10時の間に3時間計画停電を予定していた第1グループについて、開始予定をやや過ぎてから「停電を見送る」と唐突に発表。一方で、14日夕に一部地域で実施した計画停電では当初、「対象地域は茨城、静岡両県の一部だけ」としていたが、その後「千葉、山梨両県の一部が(停電地域から)漏れていた」と訂正するなどドタバタぶりが際立った。
この間の政府の対応もお粗末だった。実務レベルで調整にあたる加藤公一補佐官は13日夜、官邸で記者団に「私が(計画停電を)聞いたのは本日。1時間でも、2時間でも、早く正確な見通しを出してもらいたい」と東電の報告の遅れにいら立ちをぶちまけた。
東電の藤本孝副社長は14日午前3時過ぎ、枝野幸男官房長官、蓮舫・節電啓発担当相を官邸に訪ね、打ち合わせを重ねたが、政府内では東電側に対応を委ねる姿勢も目立った。
本来、国には鉄道事業者との協力体制構築や、学校や病院などに対する影響の調査など国民生活への打撃を抑える努力が求められたが、政府関係者は「時間が足りなかった」と説明。政府と東電が細かい打ち合わせをしないまま計画停電初日に突入したといい、「鉄道が大規模に運休することは想定外だった」と見通しの甘さを認めた。
そんな連携不足の結果、鉄道事業者による最終的な運行計画の決定・公表は同日未明にずれ込んだ。例えば、西武鉄道は東電の計画停電リストに基づいて、12路線のうち池袋線など3路線の一部区間に限って運行する計画を13日午後10時45分ごろに発表した。
しかし、翌14日午前4時20分、東電から「第1グループの停電を取りやめる」と事前通知があり、急きょ乗務員を手配するなどして、始発運転後の午前6時ごろから運行路線を6路線の一部区間に増やす対応を講じた。ただ、急ごしらえの運行便の追加には限界もあった。【吉永康朗、三沢耕平、堀智行】
◇鉄道と連携模索 工場再開、夏へ--常態化懸念
14日の計画停電実施が静岡県と茨城県の一部地域などで約1時間半と限定的になったのは、電力需要が東電の想定を大幅に下回ったためだ。同日の電力需要は当初、4100万キロワットで、供給能力を1000万キロワット上回ると想定されたが、実際は午前中で電力需要は2900万キロワットにとどまった。東京などで同日の最高気温が4月下旬並みに上昇、暖房需要が少なかった上、鉄道会社の運休・運行便の削減が予想以上に大規模となり、電力需要が落ち込んだからだ。
東電の担当者は「企業や家計に節電意識が広がった効果もある」と分析。実際、ソニーは14日から当分の間、社員が午後5時半に帰宅する「ノー残業デー」を実施。イオンもグループ全店舗で演出用の照明などを控え、屋外の広告塔も自粛するなど、産業界も節電対策を本格化している。
ただ、東日本大震災で全国の工場を停止するトヨタ自動車など大手メーカーが今後、工場稼働を再開していけば、大口電力需要が増え、電力需給は一気に逼迫(ひっぱく)する。被災した福島第1原発で放射能漏れを起こし、多くの原発が停止中の東電は、中部電力から電力融通を受けるなど緊急措置も取る。しかし、東電の電力周波数は50ヘルツで、60ヘルツの中電から融通してもらっても「周波数変換能力の制約から受電能力は100万キロワットに限られる」(関係者)。
東電は、東京や千葉の火力発電所を復旧させて電力不足を穴埋めする考えだが、それも4月末までかかる。さらに、夏場は深刻で、供給能力が4800万キロワット程度にとどまる見込みに対し、冷房需要が高まる7、8月のピーク時の電力需要予想は6400万キロワットと大きなギャップがある。
14日の混乱ぶりを見れば、東電や政府には、鉄道事業者と連携し、少なくとも通勤・通学時の悪影響を抑えることが求められるが、対応は簡単ではない。例えば、JR東日本は自社が運営する新潟県と川崎市の二つの発電所で運行に必要な使用電力の約56%(09年度)を賄うが、14日に運行できたのは首都圏在来線(38路線)のうち11路線だけ。JR東日本によると、踏切など東電の電力供給を受ける周辺設備の一部の安全が保証できない▽計画停電の決定が急で、乗務員の確保が難しかった--からだという。
枝野官房長官は14日夜「鉄道運行で何らかの対応ができないか、東電と鉄道事業者などが調整している」と述べたが、どこまで効果があるか。利用者の厳しい目が注がれている。【山本明彦、町田徳丈、森禎行】
◇自宅待機など相次ぐ 鉄道運休で首都圏企業
計画停電に伴う14日の鉄道運休で、首都圏の企業では、従業員の自宅待機や早期退社を認める措置が相次いだ。資生堂は14日午前8時ごろ、本社勤務の社員を対象に「出勤困難な社員は自宅待機とする」との一斉メールを送信。日産自動車も同8時35分ごろ、グローバル本社(横浜市西区)勤務の社員に「無理して出社しないように」と通知した。
交通網混乱は14日午後も続き、パナソニックや日立製作所は、帰宅困難が予想される首都圏の社員に対し、早期退社を許可。富士通やサッポロホールディングスは15日以降も出社困難な場合は、上司の判断で自宅待機を認める。【弘田恭子】
毎日新聞 2011年3月15日 東京朝刊
http://mainichi.jp/select/weathernews/news/20110315ddm003040095000c.html