2011年2月15日1時56分
MBOによる非上場化を目指し、15日に株主総会を開く出版社「幻冬舎」。ファンドが取得した3分の1超の株式の「名義人」は、証券会社のままだ。非上場化の成否を握る証券会社の動向に、注目が集まっている。
■ファンド取得分、名義人は証券会社
幻冬舎は15日に都内で開く臨時株主総会で、株式の公開買い付け(TOB)に応じなかった株主の持ち株を、強制的に買い取れるよう定款を変える議案を出す。非上場化に向けて不可欠な手順。承認には、出席した株主の3分の2以上の賛成が必要だ。
カギを握るのは、昨年11月以降、市場で幻冬舎株を買い進め、大量保有報告書の上では3分の1超の議決権を握った英領ケイマン諸島籍のファンド「イザベル・リミテッド」側の動向だ。今年1月21日付では、保有株は1万198株(議決権ベースで37.15%)にのぼっている。
ただ、その大半は中堅証券の立花証券を通じた「信用取引」による株取得だった。
イザベルが株主総会の基準日である1月7日までに売買代金を精算して現物の幻冬舎株を得ていればよかったが、その手続きをしなかったため「名義上の株主」は立花証券のままだ。
これが意見の相違のもとになっている。大口の信用取引で証券会社が「名義上の株主」となっている場合、株主総会の議案には賛成も反対もしない、つまり議決権を行使しないのが、これまでの株式市場の「通例」だ。
ただし、証券会社が議決権を行使することを制限する法制度はない。イザベルの代理人を務める豊田賢治弁護士は朝日新聞の取材に、立花証券がイザベルの意をくんで反対の議決権を行使することについて「法的に問題ないはず」と語る。立花証券は14日時点で「私たちはどこからの圧力も受けない。私たちが判断する」としており、総会での議決権行使についての態度を明らかにしていない。
今回、立花証券がどんな動きを見せるのか。幻冬舎側は「証券会社は仲介業者。会社の重要な意思決定に関して、あくまで中立の立場であるべき」だとして、総会に出ず、議決権を放棄すべきだと主張する。
法曹界では今回のようなケースについて「経済的利益を守るための手段として、議決権を行使することは、あって良いこと」(野村修也・中大教授)など証券会社の議決権行使を認める意見が多い。
今回のような例が認められれば、少ない手元資金で多くの株式を取得できる信用取引で、総会に姿を見せないまま、企業経営に意向を反映できるようになる。このため、これまで積極的な行使が手控えられてきたとする市場関係者もいる。(角田要)
<MBO> 企業経営者が自社の株式をほかの株主から買い取ること。マネジメント・バイアウトの略。金融機関から資金を調達し、自社株を公開買い付け(TOB)して、上場をやめる例が多い。経営者と株主を一体化させることで、企業再建をやりやすくするねらいもある。株式買い取り価格を巡り価格が安すぎるとして、ほかの株主から賛同が得られないケースもあり得る。
<信用取引> 株を売り買いするときに、必要な資金や、株そのものを証券会社から借りて行う取引。手持ち資金以上に株を売買することも可能になる。証券会社に資金を返済して現物株を引き取る「現引き」をするまでは、信用取引で買った株の名義は証券会社にある。一般信用取引と制度信用取引があり、制度信用取引は証券取引所が定める銘柄に限られ、返済期限は6カ月以内。銘柄を選ぶ基準が厳しい分、貸出金利が低めに設定される。
■幻冬舎、MBOのこれまで
1993年11月12日 角川書店で取締役編集部長を務めた見城徹氏が設立
2003年1月30日 ジャスダック上場
2010年10月29日 MBO実施を発表。TOBの買い取り価格は1株あたり22万円、成立要件は「3分の2超の応募」
11月12日 イザベルが英領ケイマン諸島で設立
12月7日 イザベルが30%超の株を取得していることが判明
12月13日 TOBの買い取り価格を24万8300円に引き上げ、成立要件も「過半数の応募」に引き下げ
12月29日 TOB成立。58.17%が応募
2011年 2月3日 「立花証券が第2位株主」と発表
2月15日 臨時株主総会