2011.2.12 18:00
会社更生法の適用を申請したバイオ企業の林原(岡山市)のメーンバンクである中国銀行の対応の甘さが明るみに出てきた。長年にわたり売上高の架空計上など不正経理を続けてきた林原の閉鎖性に対し、取引銀行は経営の透明化を促すことはできなかったのか-。
「恥ずかしながら『会計監査人』が(法人登記の)登記事項であるということを知らなかった」。岡山市内で8日開かれた中国銀行の決算発表の記者会見で、宮長雅人常務はこう釈明した。
その瞬間、会見場の空気は明らかに一変。「えっ!?」と驚きの声を上げる記者もいたほどだ。
問題となったのは、林原が会社法で選任が義務づけられている会計監査人を置いていなかったことだ。同法では資本金5億円以上または負債200億円以上の企業は、非上場であっても監査法人や公認会計士といった会計監査人の設置が求められる。
同日の会見でこの点について問われた永原正大常務は「会計監査については、林原から『会計監査人から適正意見を得ている』と説明され、監査報告書の提出を求めたが応じてもらえなかった。まことに遺憾で、もう少し強く提出を求めればよかった」と話した。
ある記者が「会計監査人が誰なのかや有無については、登記簿を見れば分かることなのに、調べなかったのですか」と問うと、永原常務は「会計監査人が登記事項であるということを行内で誰も知らなかった。林原が当然、会計監査人を置いているものと思っていた」と回答。宮長常務が「恥ずかしながら知らなかった。経営サイドから『登記簿を調べろ』と指示したこともない」と補足した。
こうしたやり取りがなされるうち、記者のうち何人かは「信じられない」といった表情をみせ、会見場は少しざわめいた。気色ばんだ記者が質問を重ねたが、中国銀行側は「銀行の実務上、登記簿を見ながら業務することはない」「こういったことは他行も同様だと思われる」と半ば正当化した。
また、林原の借入金約1300億円のうち、中国銀行の貸し出しは約400億円。「過剰な貸し出しではなかったか」との問いには「林原は研究開発型の企業で、収益の実現までに時間を要する。トレハロースなど同社にしか作れない製品もあり、総合的にみて適正な貸し出しだった」と宮長常務。林原グループが同行の大口株主であることとの関連についても「独断専行はない。正当な融資として取り扱っている」と強調した。
ただ、林原に対し当初目指していた事業再生ADR(裁判外紛争解決)による再建が頓挫した経緯をめぐり、一部報道による誤解が広まるなど、中国銀行に同情的な事情もある。
同行首脳によると、ADRの過程で債務を株式に振り替えるDESも検討していた。しかし、昨年末に融資した数十億円の運転資金に関し、以前に設定して登記を留保したままだった根抵当権を登記したことを「他行にさきがけて担保を取った」とみなす大々的な報道が一部でなされた。同行首脳は「担保については最初は驚かれたが、ほとんどの他行は理解してくれた。法的整理の過程で否認されることはまったく想定していない」としている。
また、債権放棄額を各銀行で案分する条件を決める際、中国銀行は自らの負担が増える条件に譲歩したが、ある他行が断ったため破談になった。
中国銀行は行内のコンプライアンス(法令順守)委員会で林原問題を議論する。