2011/01/31 18:26
アラブ諸国で反政府運動が相次いでいる。すでに「ジャスミン革命」「フェイスブック革命」と呼ばれる反政府暴動でチュニジアのベンアリ政権は崩壊。エジプトでは100人を超える死者が出るなど、政府の統制は実質的にとれていない。
長期政権を続ける政府へのさまざまな不満が噴出している形で、エジプトのヘルメス指数は26-27日で約16%下落。週末28日の米国市場でも地政学的リスクが大きな懸念材料となり、NY市場の寄り付き後にCNBCの映像などで情勢悪化が伝えられるとリスク回避から株式は急落。「質への逃避」から国債が買い進まれる動きになった。
現在、焦点となっているエジプトにはスエズ運河という経済の大動脈が存在する。特にスエズ運河を経由する欧州への原油輸送に悪影響が出るとの思惑は強い。反政府運動が活発なのはエジプト、イエメン、ヨルダン、アルジェリア。このなかで産油国はアルジェリアのみだが、海外メディアによると反政府運動はイエメン、ヨルダン、サウジアラビアなどにも拡散する雰囲気もあるという。
28日に原油先物価格は急伸しており、今後サウジアラビアをはじめとする主要産油国に反対運動が拡散すれば価格は一段と上昇しそうだ。原油価格の上昇は原材料高につながり、大半の日本企業にはマイナス。ただ、原油生産そのものに問題が発生すれば別だが、国際石油開発帝石 、石油資源開発 、昭和シェル石油 、コスモ石油 、AOCホールディングス 、出光興産 、JXホールディングス など石油関連株には原油高は追い風になる。
また、スエズ運河が実際に通行不能になった場合は商船はアフリカ南端の喜望峰を回らざるを得ない。28日の米国市場で石油タンカー株は思惑から底堅い動きを見せたが、スエズ運河が通過不能になった場合、通過不能になるのは石油タンカーに限った話ではなく、日本郵船、商船三井 、川崎汽船 なども脚光を浴びそうだ。
今後、中東情勢はどのように展開するのか。最大の懸念は産油国への反政府運動拡散によるイスラム原理主義組織の勢力拡大だが、みずほ証券は1月31日リポートで「価格が上昇している原油を元手に民生の安定を図ることができる国々では、民衆の不満を経済的な面から押さえ込んでいくことが可能」と指摘する。サウジアラビアやクウェートといったOPEC(石油輸出国機構)内の主要産油国まで拡大する可能性は低いだろう。
三菱UFJ投信シニアストラテジスト・石金淳氏も、「『フェイスブック革命』などと言われるが、根本要因はイラン革命やフランス革命と同じくスタグフレーション(インフレと景気後退が同時に発生した状況)の発生。この先、中東諸国は何らかの対応をしてくるはず。今後の成り行きは注意する必要はあるものの、このまま運動が拡大する確率は小さく、日本への投資や経済への影響は限定的だろう」と話す。
昨年の欧州ソブリン危機時や尖閣問題もそうだったが、市場の最悪の事態を織り込む動きが実際に発生することはほとんどない。週末の米国株やきょうの日本株の下げは中東情勢を利食い売りの材料に利用した形で、このまま売りが続く可能性は低そうだ。(宮尾克弥)