◎自立した生活手放さず/農業佐野幸正さん(64)・ハツノさん(62)=福島県飯舘村
「よかった。飯舘の牛の値はどうなるかと思っていた。ありがたい」
佐野幸正さん(64)が言った。福島県飯舘村で繁殖牛も手掛ける農家。13日、県畜産市場での競りで、跡継ぎの長男が育てた2頭の子牛に40万円の値が付いたという。
「うちでは半世紀前から牛を飼ってる。家族だよ」と幸正さん。村の農家は、肉牛の肥育や繁殖、酪農などで、計約3000頭もの牛を飼う。
阿武隈山地の高原の村は、1980年に作況指数12の大冷害に見舞われた。村と農家は環境と共生できる肉牛の飼育に取り組み、努力は「飯舘牛」のブランドに実った。
だが、「村の牛はもう値が付かず、競りも最後か」との話が農家にあった。3月11日の震災後、約40キロも山向こうの福島第1原発(同県大熊町、双葉町)で起きた事故のためだ。