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2012/09/16

反日デモ参加者の中には、薄氏の支持者が多いとみられており、指導部は早期に反日デモを収束させないと、「反日」が「反政府」に転化するとの懸念を強めているのは確実

「強硬姿勢」迫られる胡指導部=党大会前に妥協できず-「対日」政治問題化・中国

 【北京時事】中国で16日、2日連続で大規模な反日デモが起こり、共産党指導部が暴走する愛国感情を制御できない状況が一層鮮明になった。胡錦濤指導部は対日関係の決定的な悪化を回避しつつ、10月に開かれる5年に一度の共産党大会を控え、民衆や人民解放軍内に広がる対日強硬論にも配慮しなければならない。党内は尖閣諸島(中国名・釣魚島)国有化に妥協できない雰囲気になっている。

 中国の対日研究者によると、1980年代半ば、改革をめぐる党内対立が深まる中、日本に肩入れしたとして保守派長老から攻撃された開明派・胡耀邦元総書記の失脚は、今も国家指導者の頭にこびりついている。胡氏が信頼関係を強化した中曽根康弘首相(当時)は85年の終戦記念日、靖国神社に公式参拝。その後満州事変の発端となった柳条湖事件記念日の9月18日、北京・天安門広場で大規模な反日デモが起こり、胡氏の政治的立場は弱くなっていった。

 「日本問題」は、抗日戦争の勝利により確立した共産党政権の正統性にも関わり、国家指導者は常に歴史・領土問題で妥協は許されない。日中関係筋は「共産党政権が突然、歴史キャンペーンを始めることがあるが、その際、歴史問題に厳しい保守派が勢力を増しているケースが多い」と解説する。

 今回の尖閣国有化を受け、胡錦濤国家主席ら政治局常務委員9人のうち5人が対日批判を展開した。外交筋は「党大会を前に権力闘争が激しくなる中、日本問題で揚げ足を取られたくないのだろう」と解説。党・軍内の強硬派に加え、インターネット時代になり、「指導者は民衆の間で高まる主権意識・愛国感情も重視しなければならない」と同筋は語る。

 15、16の両日に北京の日本大使館前で行われた反日デモで、「断固中国政府を支持する」との横断幕が現れた。中国指導部は、今のところ、反日デモが過激化しても抑え付ける勇気はないとみられる。

 一方、今回の北京のデモでは、多数の若者らが毛沢東主席の肖像画を高く掲げた。中国人にとって偉大な建国の指導者である毛主席を持ち上げるのは「みんな貧しくても平等だった毛時代への郷愁の表れ」(北京の弁護士)とみられている。デモに参加した民衆は、低所得や貧富の格差に憤っており、現在の社会への不満を「反日」にぶつけているケースが多い。

 胡指導部によって失脚させられた前重慶市トップの薄熙来氏は、毛時代の革命歌を歌う「紅歌」熱唱キャンペーンを展開。貧困層や社会的弱者の絶大な支持を得た。反日デモ参加者の中には、薄氏の支持者が多いとみられており、指導部は早期に反日デモを収束させないと、「反日」が「反政府」に転化するとの懸念を強めているのは確実だ。

 しかし共産党筋によると、党・政府にとって、日中が全面戦争に突入した盧溝橋事件(7月7日)から、終戦(8月15日)・抗日戦勝(9月3日)を経て柳条湖事件(同18日)の記念日までの期間は、日本問題に決して妥協できない時期と位置づけている。今回の反日デモで民衆の「ガス抜き」を図り、18日以降は関係改善に向けて尖閣問題の落としどころを探り始めるのでは、との観測も出ている。(2012/09/16-19:18)

 http://www.jiji.com/jc/c?g=pol_30&k=2012091600205



2012年8月26日9時7分

薄熙来氏、党籍剥奪へ 胡主席派、保守派押し切る

 中国共産党が、重慶市副市長の米総領事館駆け込み事件などの責任を問われ、党政治局員の職務を停止された同市党委員会前書記の薄熙来(ポー・シーライ)氏(63)を党籍剥奪(はくだつ)の処分とする方針を固めたことが分かった。党の指導者らが集まって今月上旬に河北省北戴河で開かれた非公式会議で決定した。会議の出席者に接することができる複数の党関係者が明らかにした。

 薄氏をめぐっては、後ろ盾だった江沢民・前国家主席ら党内の保守派勢力が厳しい処分に反対していたが、胡錦濤(フー・チンタオ)国家主席(党総書記)に連なる勢力がこれを押し切った形だ。今秋の第18回党大会で決まる次の最高指導部人事の調整においても、胡氏が強い政治力を維持していることを示す決定といえる。

 胡氏は最高指導部である政治局常務委員会の次の顔ぶれを巡って、委員の数を現在の9人から7人に減らすことを主張しているとされ、党大会で総書記を退いた後も、自身の出身母体である共産主義青年団(共青団)系の政治勢力が政策決定を優位に進めることができる態勢を求めている。薄氏の処分はこうした人事をめぐる駆け引きに大きな影響を与えるとみられる。





焦点:中国の左派が薄熙来氏擁護に本腰、党内分裂深まるリスクも

2012年 08月 22日 16:37
[北京 21日 ロイター] 重慶市トップを解任された薄熙来氏の支持者である左派(保守派)が、薄氏と同氏の妻・谷開来氏は陰謀の犠牲者だとして薄氏擁護に本腰を入れ始めており、共産党内で分裂が深まる危険をはらんでいる。

中国の裁判所は20日、英国人ビジネスマン、ニール・ヘイウッド氏を殺害した罪で、谷氏に執行猶予付きの死刑判決を言い渡した。

谷氏の行為にプロパガンダ的な背景は見当たらないため、この事件が薄氏を追い落とし、同氏の大衆迎合的な経済政策や毛沢東時代を呼び起こす社会主義的な活動をおとしめるための陰謀ではない、ということは薄氏の支持者にも分かりそうなものだ。

しかし、共産党の極左らは、薄氏の失脚を目論んだとして公然と指導部を非難している。中には、電子メールやオンラインで温家宝首相の弾劾を求める請願書を配布している者もいるという。署名者には元高級幹部2人が含まれていたともされる。

重慶市トップ時代の薄氏の政策を熱心に支持し、北京航空航天大学経済管理学院で教えている学者の韓徳強氏は「少なくとも今のところ、事件には不可解な点が多すぎると思う」と指摘。「(薄氏をめぐる)今回の出来事全体が薄氏の『重慶モデル』をつぶそうとの意図があったと信じている」とし、「中国共産党の一筋の希望の光が消されてしまった」と語る。

薄熙来氏は党規違反で重慶市トップを解任された3月以降、拘束される身となっている。拘束場所は不明。党規違反には汚職や権力乱用などが当たる。

今のところ、党指導部が薄氏の党規違反についてどのような処分を下すのか、裁判で審理されるのかについて公式なコメントは出ていないが、少なくとも薄氏の政治キャリアは終わったとみられている。

中国共産党が市場改革と国家統制の間で揺れ動く中、薄氏をめぐる混乱が示すのは、リベラル派だけでなく、党が資本家の利益にとらわれているとみなす熱心な左派からも党が反発を受けているという事実だ。

もしも党中央が薄氏を厳しく処分すれば、分裂を深めてしまう危険がある。一方、寛大に扱えば、薄氏や同氏の左派的なやり方を正当化するものと受け取られる恐れがある。

政治関連の著書もある上海師範大学の歴史学者、蕭功秦氏は電話インタビューで「左派はもともと、中央からイデオロギー的にある程度便宜を受け、右派への対抗ツールとみなされていたが、現在、左派は中国の政治体制の中で幻滅を感じている」と指摘。「薄氏のような人物を通じ、現在の体制の中で自らの平等主義思想を実現するチャンスに失敗したと左派は考えており、左派が体制外の一つの勢力になりつつある」と解説した。

同氏は最新の著書「左右のラディカリズムを超えて」の中で、もし中国経済が悪化し、社会対立が深まった場合、幻滅を感じた人民の間で、毛沢東時代に対する郷愁の念を隠さない極左の訴えが広範な支持を獲得する可能性がある、と記している。

谷開来氏の裁判について中国で出回っている陰謀論には、被告席にいたのは代役だったといった話も含まれている。より穏健な見方でも、谷氏に対する検察官の筋書きは信じがたく、矛盾に満ちているといった内容だ。

薄氏を擁護し、同氏の敵、特に温家宝首相や胡錦濤国家主席を攻撃するオンライン上の書き込みは、過去の党幹部の失脚事件とは異なることを露骨に示している。今回はインターネットに対する検閲があるにもかかわらず、批判がオープンなものになっている。

極左系ウェブサイト「紅色中国(www.redchinacn.net)」では21日、あるコメントが「胡と温は谷被告の裁判をごり押しするため、すべての政治的な信用を使い果たさなくてはならなかった」とした上で、「しかし、この信用はいったん使ってしまえば消え去ってしまう。今後、中国は混乱を避けることはできないだろう」と指摘した。

こうした批判は、中国共産党が10年に1度の世代交代を控え、人民に服従を強いている中、今後直面するであろう困難を物語るものだ。

テレビのエンターテインメント番組に登場し、薄氏の擁護者として知られる司馬南氏は「現在の中国政界では、指導者は上司だけでなく、一般の人々にも目を向けなくてはならない」と指摘。1993年に失脚した元軍幹部を引き合いに、「薄熙来氏を楊白冰氏のように孤立させることはできない。なぜなら、現在はインターネットの時代であり、言論統制がはるかに難しくなっているからだ」と述べた。


<新たな政治的カリスマ>
左派の支持者らは、薄熙来氏をおとしめる行為がかえって、経済自由主義や西欧的な価値観に脅かされた毛沢東時代の美徳の擁護者として、カリスマ的な偶像をつくり上げたと指摘する。

前出の韓徳強氏は「以前、われわれはただの学者に過ぎなかった。しかし、今では体制の内外で知られている政治リーダーを抱くようになった」と語る。

細身のスーツや高価そうなネクタイを好む元商務相の薄熙来氏(63)は、復古的な社会主義的価値観の支持者があがめる対象にはいまひとつみえない。

ただ、2007年に重慶市のトップについてからは、成長の果実を全人民に行き渡らせるモデルと支持者らが名付ける政策を派手に打ち出した。

犯罪組織撲滅を目指したキャンペーンでは、支持者らは企業家や官僚が不正に得た富に打撃を与えたと賞賛。薄氏や同氏の取り巻きは、旅行や研究助成金で左派系の学者を囲い込んだ。

薄氏擁護のキャンペーンを張り、党指導部に請願書も出したことがある元大学教員のWang Zheng氏は「一般の人々は、薄氏が何をしているのか自分たちで知ることができるようになった」と指摘。「薄氏は人民の評価が本当に高かった。これは根拠なく得られるものではない」と解説する。

中央政府は薄氏の失脚以降、同氏を擁護するウェブサイトをいくつか閉鎖したものの、他の複数のウェブサイトは相変わらず薄氏を賞賛したり、谷氏の裁判を批判するコメントを掲載している。

ウェブサイト「紅色中国」に最近掲載された書き込みには、「胡(主席)と温(首相)に告ぐ。人民と党員は薄氏を擁護する権利がある」とあった。同サイトには、大量の国有事業の売却を計画したとして、温首相の弾劾を求める請願書も出回っている。

同請願書には2人の元中央政府高官を含め1644人が署名したとされ、「温家宝は深刻な過ちと罪を犯した」と指摘。「温家宝は党中央最高指導部において、徹底的な西欧化を志向する派閥の代表となった」と指弾している。

元政府高官として名を連ねたMa Bin、Li Chengrui両氏には、請願書に署名したのか確認を取ろうとしたが、連絡がつかなかった。ただ、その他複数の署名者は請願書を支持したと認めた。

ウェブサイト「紅色中国」は、検閲の回避方法を知らない多くの中国人にとって閲覧不能だ。しかし、毛沢東時代の社会主義の復活を提唱するZhang Hongliang氏は、薄氏擁護の声を抑えることはできないと指摘する。

株式投資を教えて生計を立てている同氏は電子メールでコメントし、「表面上、薄熙来氏が敗者であるかのようにみえる」とした上で、「実際には、最大の敗者は中国共産党であり、中国という国家だ」との見方を示した。

( 記者 Chris Buckley;翻訳 川上健一;編集 加藤京子)