ドイツ、累積導入5200万kWで太陽光の買い取りを廃止 2012年7月6日
太陽光発電買取制度を巡って対立していたドイツの連邦議会(下院)と連邦参議院(上院)は2012年6月27日に開催された両院協議会において、太陽光発電買取価格の引き下げ、ならびに太陽光発電の累積設備容量が5200万kWに達した後は太陽光発電の買取を中止することなどを盛り込んだ修正法案に合意した。
なお、過去に連系系統した設備については継続する。5200万kWの上限値には早ければ2016年にも達すると見込まれ、同年以降は新規の太陽光発電設備には買取制度は適用されなくなる(注:2012年第1四半期現在の導入量は2650万kW)。
買取価格については、10~40kWの設備の価格は原案よりも高めに修正が図られ、一方で引き下げに関しては2012年4月1日に遡って実施される予定。先の連邦議会案に盛り込まれていた部分買取制度(各設備の発電電力量の9割のみを買取制度の対象とするという内容)は残されたものの、10kW以下の設備については、その対象から外されることになった。
この修正法案は今後、連邦議会と連邦参議院での審議を経た後、夏期休暇前には成立する見込みである。
(注)再生可能エネルギー法改正案の内容(2/29 ドイツ連邦政府閣議決定)
1)2012年3月9日から太陽光発電の買取価格を20~29%引き下げる
2)2012年5月から太陽光発電買取価格を毎月0.15ユーロセント/kWh引き下げる
3)2012年3月9日以降に電力系統に連系する太陽光発電設備については、2013年1月1日から全量買い取りではなく、各設備の年間発電量の85~90%を買い取る部分買取制度を適用する
4)太陽光発電設備の導入目標を2012~2013年が250万~350万kW/年、2014年が210万~310万kW/年、2015年が170万~270万kW/年、2016年が130万~230万kW/年、2017年以降は90万~190万kW/年とする
5)導入目標から逸脱する場合は連邦環境省が省令によって買取価格を改定する
[FT]補助金削減でドイツ太陽光発電の前途に暗雲
(2012年3月28日付 英フィナンシャル・タイムズ紙)
ベルリンから60キロ北にあるフィーノー・タワーは欧州最大級の太陽光発電所だが、おそらくドイツで最後の大規模施設となりそうだ。補助金の引き下げが29日にも議会で可決される見通しだが、それにより、この規模の太陽光発電所とその建設に携わる企業の経済性が悪化する恐れがある。
■破産申請する太陽光機器メーカーも
フィーノー・タワーの設計、資金調達、建設を行った太陽光機器メーカーのソーラーハイブリッドは先週破産申請し、ソロンやソーラーミレニアムといったドイツの同業他社に続いた。欧州の太陽電池最大手、独Qセルズは、以前は好業績企業とみられていたが、現在は財務の再構築を行っており、27日、グループ収益10億ユーロ、純損失8億4600万ユーロという2011年度決算を発表した。
フィーノー・タワーの建設に携わったエンジニア、ミカエル・ヒュフネル氏は「ドイツではこのような大プロジェクトは今後もう見られないだろう」と無念さを隠さない。
同氏は、他の業界関係者と同様に、4月から太陽光発電への補助金を引き下げる独政府の計画で10年間続いた幸運な時代が終わるとみている。この期間に、原子力発電所17基分に相当する25ギガワットの発電容量と13万人分の雇用が生まれた。
■補助金引き下げで収益率が急減
フィーノー・タワーのプロジェクトを立案したソーラーハイブリッドのトム・シュレーダー最高経営責任者(CEO)は「数年前は、投資収益率は10~13%ぐらいだった」と話す。同氏によると、2年間にわたる補助金引き下げにより収益率は6~7%に下がったが、今回の引き下げで新規プロジェクトの経済性はさらに悪化する見込みだという。
シュレーダーCEOは、フィナンシャル・タイムズ紙が取材した今月初めの時点では、ソーラーハイブリッドが直前の変更で6月から9月に延期された計画立案期限に間に合えば、ドイツのプロジェクト4件は完了し、引き下げ前の補助金を受けることができるとまだ期待していた。だがその後は、米国や中東のプロジェクトを含む海外事業に重点を置きたいと考えている。
ソーラーハイブリッドが破産状態から脱して企業目的を追求できるかどうかはまだわからない。シュレーダーCEOは、裁判所が任命する破産管財人が経営の主導権を握って初めて、同社の今後が具体化するとみている。
■新設の大規模発電所では補助金ゼロに
一連の段階的引き下げの後、メルケル政権は新設の小規模発電所に対する補助金を約3分の1引き下げ13.50~19.50ユーロセント/kWhにすることと、18ユーロセント/kWhの補助金を受けている新設の大規模発電所に対する補助金を完全に廃止することを計画している。比較材料を挙げると、大口電力利用者は約14ユーロセント/kWh支払っている。
今回の決定は、22年までに原子力発電所を段階的に廃止し再生可能エネルギーで代替する意向の政府にとって間が悪いように思える。だが、相次ぐ太陽光発電所の建設が引き金となって電力価格が上昇し、再生可能エネルギーへの国民の支持を失いかねない懸念から、メルケル政権のレトゲン環境相も補助金引き下げを支持している。というのも、フィーノー・タワーが今後20年間で電力1kWhあたりに受ける補助金は、電力利用者が支払う再生可能エネルギー促進付加金によって賄われるためだ。発電容量が増えるほど、買わなければならない太陽光発電が増え、利用者が支払わなければならない金額も増える。
■予想超える太陽光の伸びに歯止め
11年には、ソーラーハイブリッドのような企業と多くの自宅所有者が7500メガワットの太陽光発電を供給したが、これは政府予想の2倍にあたる。その結果、再生可能エネルギー促進付加金は70%増の3.5ユーロセント/kWhに跳ね上がり、ドイツの電力料金は欧州で最も高くなった。補助金のうち約80億ユーロが太陽光発電業者に回り、風力発電など他5種類の再生可能エネルギー関連には60億ユーロしか回らなかった。
独政府は、太陽光発電に対する優遇措置をやめることで電力価格の上昇に歯止めがかかると期待している。政府は議会に対し、太陽光発電が年間2500~3500メガワットを超えて増加した場合さらに補助金を引き下げる権限を付与するよう要請した。
By Gerrit Wiesmann
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