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2012/06/10

捜査員はすぐに向かったが、「仕事で外出中だと思った。まず、本人確認に慎重を期した」(捜査幹部)とただちに踏み込むことはしなかった

高橋克容疑者の逃走直前 捜査員 数百メートルまで接近

2012年6月10日 朝刊
 地下鉄サリン事件で特別手配されていた菊地直子容疑者(40)の逮捕から一週間。警察の大捜査線をかいくぐって依然、逃亡を続けているのが、高橋克也容疑者(54)だ。捜査関係者によると、警視庁は一時、高橋容疑者と数百メートル圏内にまで接近。身柄確保のチャンスがあった。しかし、確保しきれなかった警視庁は、積極的に防犯カメラの画像を公開、国民一人一人の目や耳も包囲網に加え、威信をかけて行方を追っている。

 「確保できる可能性は大いにあった」。捜査員の一人は悔しさをにじませた。警視庁は三日夜、菊地容疑者を殺人容疑などで逮捕。続いて菊地容疑者をかくまっていた男(41)を犯人蔵匿(ぞうとく)容疑で四日未明に逮捕した。男の供述から、高橋容疑者が住んでいたアパートの情報がもたらされた。


 男が地図上に示したのは、川崎市幸区内のアパート。ただちに駆けつけた捜査員は、急襲した。
しかし、アパートはがらんとしていた。高橋容疑者は昨年末、引っ越し、空き室になっていた。

 警視庁は朝になるのを待ち、四日午前、アパートの関係者から、高橋容疑者の転居先と勤務先が判明した。

 ともに住所は、同じ川崎市内。転居先は川崎区渡田(わたりだ)の勤務先会社の寮だった。捜査員はすぐに向かったが、「仕事で外出中だと思った。まず、本人確認に慎重を期した」(捜査幹部)とただちに踏み込むことはしなかった。まだ、高橋容疑者本人と確信できていなかった警視庁は、寮を出入りする様子をビデオに撮り、分析してから踏み込むプランなどを検討。同時に周辺への聞き込みなどが行われた。

 事態が動いたのは四日午後六時。捜査員は寮に帰ってきた同僚から「ここには住んでいない。建設会社に併設されている別の寮にいる」と聞かされた。渡田の寮からわずか四百メートル。六時半に踏み込んだときには、もぬけのからだった。

 一方、高橋容疑者は四日朝、同僚から菊地容疑者の逮捕を知らされ、午前十時ごろ、会社近くのコンビニで新聞を購入し、逮捕を確認。信用金庫で二百三十八万円を下ろした後、量販店に入り、キャリーバッグを購入。午後二時半ごろ、会社の事務所内を歩く姿が防犯カメラに写っていた。この直後、逃走したとみられる。

 捜査員の一人は「すぐに会社にあたっていれば、併設されている寮に転居したことは分かったのでは」と話す。高橋容疑者は午後二時半ごろまでは、会社に出入りしており、接触できた可能性があることは否めない。

 警視庁幹部は「いずれ検証する必要はあるが、今は高橋容疑者の確保が最優先」と語気を強めた。

 両者が数百メートル圏内にいたのは、少なくとも二、三時間あった。なぜ、そのときに…。菊地容疑者の逮捕から十日で一週間。じくじたる思いを抱え、捜査員の必死の追跡が続く。


◆新たな似顔絵公開

 警視庁捜査一課は九日、高橋容疑者の似顔絵を新たに公開した。高橋容疑者が勤めていた建設会社の同僚の証言をもとにつくられた。髪は横分けで眼鏡を掛けている。公開されている証明写真は撮影時期が分からず、逃走時に写っていた防犯カメラの画像よりも太っていたため、より現在の姿に近い似顔絵を作成した。