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2012/02/22

日本側の誰かは『砂を入れてはどうか』と聞いてきた。しかし私たちにとっては答えは明白。『水だ、水だ、水だ』

議事録が語る原発事故の10日間
アメリカ原子力規制委員会は東京電力福島第一原子力発電所の事故発生直後の委員会内部のやり取りを記録した議事録を公表しました。
事故の発生から10日間にわたる委員会内部のやり取りが詳細に記録された資料は、全部で3000ページ以上。
その内容は「メルトダウン」「水だ、水だ、水だ」など、関係者の当時の危機感が伝わってきます。
議事録から、アメリカ当局が事故発生の5日後には、3つの原子炉がメルトダウンする最悪の事態を想定して避難などの対応を検討していたことが分かりました。



生々しい電話のやりとりも

今回、議事録と合わせて、事故発生直後の電話会議のやり取りを録音した音声も公開されました。
内容の一部を文字と音声でご紹介します。
<米原子力規制委員会幹部>
「ウィーン駐在の大使から公電が送られてきた。憂慮すべき文言だが引用する。IAEA=国際原子力機関によると地震によって福島第一原発2号機で電源が喪失している。原子炉を冷却する水の供給ができなくなっている」

<安全システム担当者>
「3つの原発で外部電源を失っている。いまだに電源回復の見通しはないようだ」
「うちの原子炉安全チームのメンバーを確認しよう。とにかく電話だ」
「誰かを飛行機に乗せよう」
「もちろんだ」
「では、進めよう。結果が出たら教えてくれ」
「線量計を用意しよう」

原発事故を独自に分析したアメリカ

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公表された3000ページ以上にわたる議事録には、アメリカ当局が事故の発生直後から独自に情報の収集や分析に努め、対応を検討した経緯が詳細に記されています。
議事録からアメリカ当局が事故後早い段階で、最悪の事態を想定して避難などの対応を検討していたことが明らかになりました。

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事故から5日後の3月16日の議事録でヤツコ委員長は「現時点で考えられる最悪のシナリオ、それは3つの原子炉がメルトダウンを起こすことです。圧力容器が破壊され、放射能が漏れ出すかもしれません。そして、6つの使用済み燃料プールで火災が発生するおそれもあります」と発言していました。
またボーチャード事務局長も「同じ事態がアメリカ国内で発生すれば、原発から50マイル以内には避難勧告を出すのが妥当だと思われます」と発言していました。

日米で食い違う判断

このとき日本政府が福島第一原発の付近の住民に出していたのは半径20キロ圏内の避難指示と20キロから30キロ圏の屋内退避指示でした。
これに対し、アメリカ当局は、少なくとも1つの原子炉がメルトダウンしているという分析を基に「原発から50マイル=80キロ以内の避難勧告を決めた」とし、さらに2つの原子炉もメルトダウンするような事態に陥れば「さらなる対応が必要になる」として、最悪の事態を想定して避難などの対応を検討していました。

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避難の対応を巡っては「風が東京に向けて吹き続けた場合、その影響はどうなるのか」「現時点では80キロが妥当だと思うが、見通しは不透明で、今後、範囲を拡大する必要性もあるかもしれない」というやり取りもありました。

さらに、議事録にはアメリカが独自に情報収集を進めていた様子も残されています。
13日の委員会には、原発から185キロ離れたところにいた空母「ロナルド・レーガン」から重大な情報が寄せられていました。

議事録には「空母で通常より高い放射線量が検出されました」「185キロ離れた場所で通常の30倍もの放射線が検出されました」「事故の規模は想定より相当大きいことになります」といった情報が記載されています。

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事故対応に見える日米危機意識の違い


議事録からは事故後の対応を巡って日米の間で危機意識に差があったことも伺えます。
事故発生から6日後。

水素爆発が起きた3号機と4号機では、使用済み燃料プールの温度が上昇したため陸と空から冷却のための水が注入されました。

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実はアメリカ側は事故発生の翌日という早い段階から燃料プールの状況を懸念していました。
画像を詳しく解析した結果原子炉建屋に壁がなく、燃料プールがむき出しの状態になっていることが分かったからです。

一方日本は、事故発生の翌日は1号機の爆発の状況確認に追われて燃料プールの状況に関する国や東京電力の説明は一切ありませんでした。

東京電力が3、4号機のプールで冷却が行われていないことを初めて明らかにしたのは15日になってからでした。

委員会の16日の議事録には次のような発言が残されています。

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「日本側はわれわれに燃料プールを冷やす方法について助言を求めています。日本側の誰かは『砂を入れてはどうか』と聞いてきました。しかし私たちにとっては答えは明白です。『水だ、水だ、水だ』」

燃料プールへの注水はアメリカ側が燃料プールへの懸念を示してから5日たったあとでした。

議事録を残すアメリカ、残さない日本


今回公表された議事録で印象的なのは、非常に詳細に記録されていることです。
例えば、3月15日の議事録は、ある関係者が「重大な事態が起きなければひと休みしてください」とヤツコ委員長に話しかけます。

これにヤツコ委員長が「分かった」と応じています。

こうした細かいやり取りの一つ一つまできちんと記されています。

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アメリカでは、1950年に施行された「連邦記録法」という法律で公文書の保存や管理を定めていて政府機関の会議などのやり取りは議事録として残すことになっています。

最近では、オバマ大統領がインターネットのツイッターでつぶやいた内容も保存の対象となるなど、時代に合わせ公文書の保存を徹底して行ってきました。

一方の日本は、福島第一原発の事故を巡っては、政府の「原子力災害対策本部」の議事録が作成されていなかったことが先月分かりました。

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公文書管理法では、政府の意思決定の過程を検証できるようにするため重要な会議の記録を残すよう定めています。

しかし、「原子力災害対策本部」を含め東日本大震災に関連する政府の重要会議のうち合わせて10の会議で議事録が作成されていませんでした。

22日の記者会見で、藤村官房長官は「日本の議事録がなかったのは、震災直後の緊急事態にあったことや、記録を残すという認識が不十分であったためではあるが、誠に遺憾なことだ。事故直後の政府の意思決定の過程や実績が把握できる文書の作成は、国民への説明義務を果たすためにも極めて重要であり、今月中には、資料をきちんと整理し、公表をしたい」と述べました。

専門家は「今後は、きっちりと記録を残したうえで、情報の公開も進め、国民に対する責任を果たすことが重要だ」と指摘しています。

(2月22日 21:25更新)

http://www3.nhk.or.jp/news/web_tokushu/0222.html