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2011/12/27

福島第一原発事故 政府事故調査・検証委員会 中間報告要旨=3

東日本大震災:福島第1原発事故 政府事故調中間報告 要旨(その3止)



7・考察と提言
1 はじめに(略)

2 今回の事故と調査・検証から判明した問題点

(1)オフサイトセンターが機能不全に陥り、関係組織の連携が不十分だった。

(2)福島第1に設置された対策本部や東京電力本店の対策本部が、役割を十分に果たせず、1号機のICの作動状況の誤認や3号機への代替注水に不手際が生じた。

(3)モニタリングシステムやSPEEDIが機能を果たさず、実効性のある避難計画の策定や避難訓練が行われず、政府による避難指示をめぐり現場が混乱した。

(4)想定を大きく上回る津波を考慮した津波対策、シビアアクシデント対策が取られていなかった。


3 政府機関の対応の問題点

 政府は、オフサイトセンターが放射能汚染に十分配慮していなかったことにより使用不能に陥ったことを踏まえ、大規模災害でも機能を維持できるオフサイトセンターとなるよう、速やかに適切な整備をする必要がある。

 原災本部の置かれた官邸5階と地下の緊急参集チームとのコミュニケーションが不十分で、事故発生直後の情報の入手・伝達ルートが確立されず、国民への情報提供も含め大きな課題を残した。既存のマニュアルや想定されていた組織が十分に機能しなかった。


4 事故後の対応の問題点

 訓練、検査も含めてICの作動を経験した者は原発内にいなかった。原子力事業者として極めて不適切であったというしかない。

 3号機のHPCIが13日午前2時42分ごろに手動停止され、結果的に13日午前9時25分まで代替注水が実施されなかったことは、極めて遺憾。

 全電源喪失から1日以上たった13日未明には、3号機のHPCIなどの作動に必要なバッテリーの枯渇を、福島第1関係者は懸念してしかるべきだった。そうした懸念があれば、消防車を利用した早期の代替注水も可能だった。より早い段階で原子炉の減圧、代替注水作業をしていた場合、爆発を防止できたかについては、現時点で評価することは困難だ。仮により早い段階で減圧ができ、消防車による代替注水が順調に進んでいれば、炉心損傷の進行を緩和し、放出された放射性物質の量も少なくなった可能性がある。


5 被害拡大防止対策の問題点

 関係機関がモニタリング結果の公表に積極的に取り組まなかったのは、住民の命と尊厳を重視する立場に立って、データ公表の重要性を考える意識が希薄だったためと考えられる。

 関係機関はモニタリングシステムに関して、(1)モニタリングシステムが機能不全に陥らないよう、さまざまな事象を想定して設計するとともに、複合災害の場合も想定して機能が損なわれない対策を講じる(2)システムの機能・重要性について、関係機関や職員の認識を深めるため研究の機会を充実させる--などの対策を講じる必要がある。

 また、被害拡大を防止し、国民の納得できる有効な情報を迅速に提供できるよう、SPEEDIシステムの運用改善を講じ、複合要因に対してもシステムの機能が損なわれることのないように、ハード面でも強化策が講じられる必要がある。

 避難指示決定にあたり、文科省の関係者が(避難指示を決定した)官邸5階に常駐した形跡はなく、SPEEDIの知見が生かされることはなかった。SPEEDIの存在が前提にあれば、ベント措置と避難の方向等について、異なった議論がされた可能性がある。

 国による避難指示は、対象区域すべてに迅速に届かなかったばかりか、内容も「ともかく逃げろ」というだけに等しく、きめ細かさに欠けていた。被害の拡大防止という視点から、こうした事態に対して備えるべきことは、(1)重大な原発事故が発生した場合、放射性物質の拡大の傾向、被ばくの健康被害について、住民の啓発活動をする(2)自治体は原発事故の特異さを考慮した避難態勢を準備し、訓練を定期的に実施する(3)避難では数千から数万人規模の住民の移動が必要になる場合があることも念頭に、交通手段の確保、避難場所の確保、水食糧の確保などについて具体的な計画を立てる(4)対策を市町村任せにするのではなく県や国も積極的に関与していく必要がある--などだ。

 炉心状態や3号機の危機的状態に関する情報提供方法、放射線の人体への影響について、「直ちに人体に影響を及ぼすものではない」といった分かりにくい説明が繰り返された。どのような事情があったにせよ、急ぐべき情報の伝達や公表が遅れたり、プレス発表を控えたり、説明をあいまいにしたりする傾向が見られたことは、非常災害時のリスクコミュニケーションのあり方として決して適切なものであったとはいえない。


6 不適切だった事前の津波・シビアアクシデント対策

 一部研究者の間には、原子炉圧力容器・格納容器・重要な配管類の一部が、地震により破壊されたのではないかとの指摘もある。当委員会のこれまでの調査では、そうした事実は確認できていない。

 安全委が01年に耐震設計審査指針の改定に着手したが、分科会委員に津波の専門家はいなかった。

 東京電力は08年に津波対策を見直す契機があったが、その見直しはされず、今回の事故を防ぐことができなかった。シビアアクシデント対策は、事業者の自主保安にゆだねれば済むのではなく、規制関係機関が検討のうえ、法令要求事項とすべきものであることを改めて示したのが今回の事故だった。東電が津波に対して事前のアクシデントマネジメントを整備していなかったことは、極めて大きな問題点の一つだった。


7 なぜ津波・シビアアクシデント対策は十分ではなかったのか

 原発の安全確保は、電力事業者の自主保安を前提とせざるを得ない一方、電力事業者による安全対策が適切であるとも限らない。自主保安には限界がある。保安院は、続発したトラブルへの対応に追われ、長期的な組織運営の検討ができず、職員の専門技術向上に取り組めなかった。安全委員会も人的態勢が十分とはいえなかった。

 シビアアクシデント対策を規制要求にすると、論理的には現行の規制に不備があることになってしまい、説明に矛盾が生じるとの懸念があったと考えられる。より安全性を高めるための改良を加えようとすると、過去を否定することと受け取られるというパラドックスが生じている。絶対安全が存在しないことを認め、リスクと向き合って生きることは容易ではない。しかし、伝えることの難しいリスク情報を提示し、合理的な選択ができるような社会に近づく努力が必要ではないか。


8 原子力安全規制機関のあり方

 政府は保安院を経産省から分離し、安全委の機能も統合して、環境省の外局「原子力安全庁」(仮称)とし、12年4月に発足を目指している。原子力安全規制機関は、原子力安全関連の意思決定を実効的に独立して行うことができ、意思決定に不当な影響を及ぼす可能性のある組織から機能面で分離されていなければならない。このような独立性と透明性を確保することが必要だ。同時に、国民への原子力安全についての説明責任を持たせることが必要である。


9 小括

 事故の発生、その後の対応について生じた問題の多くは、(1)津波によるシビアアクシデント対策が欠如したこと(2)原子力事故が複合災害として発生するという視点が欠如したこと(3)原子力災害を全体的に見る視点が欠如していたこと--の三つが大きく影響していると考える。


10 おわりに

 事故後、関係者から相次いだ「想定外」という言葉に、多くの国民は責任逃れの発言との印象を持った。「想定する」とは考える範囲と考えない範囲を決め、境界を設定することである。境界がどのようにして決まったかを明らかにしなければ、事故原因の真の要因の摘出はできない。

 大事なことは、なぜ「想定外」が起こったかである。関係者は原子力が人間が制御できない可能性がある技術であることを、国民に明らかにせずに物事を考えようとした。端的に表れているのが「原子力は安全である」という言葉だ。そう言ったときから、原子力の危険な部分について考えるのが難しくなる。

 何かを計画、実行するとき、想定自体は必要だが、想定以外のことがあり得ることを認識すべきである。

毎日新聞 2011年12月27日 東京朝刊



■ことば

 ◇原子力災害対策特別措置法
 原子力災害から国民の生命や財産を保護することを目的に00年6月施行された。10条で一定の事故や故障が生じた場合の迅速な通報を事業者に義務づけている。原子炉内に注水できず冷却機能が喪失するような重大な緊急事態に至った場合は15条に基づき通報、首相が原子力緊急事態宣言を行う。

毎日新聞 2011年12月27日 東京朝刊



http://megalodon.jp/2012-0119-0539-19/mainichi.jp/select/weathernews/news/20111227ddm010040013000c.html

http://megalodon.jp/2012-0119-0540-11/mainichi.jp/select/jiken/news/20111227ddm010040021000c.html

http://megalodon.jp/2012-0119-0541-02/mainichi.jp/select/jiken/news/20111227ddm010040022000c.html