20キロ圏の避難「不合理」 政府事故調、無用な被ばく指摘へ
政府の東京電力福島第1原発事故調査・検証委員会(委員長・畑村洋太郎はたむら・ようたろう東京大名誉教授)が近く公表する中間報告で、事故直後に政府が出した「20キロ圏の避難指示」は、一部の住民を放射線量の高い地域に向かわせ、不合理だったと問題点を指摘することが22日、分かった。住民の避難行動の混乱を招いたとみている。
こうした「無用な被ばく」を避けるのに役立つ予測データが存在したが、経済産業省原子力安全・保安院などは「仮想の計算結果にすぎない」として官邸の危機管理センターに届けず、避難指示の内容を決める判断材料に使われなかったことが問題だとしている。
関係者によると、風向きなどの影響で原発から北西方面に20キロ圏を超えて放射線量の高い地域が広がったが、政府は原発からの距離だけを基準に避難を指示したため、福島県沿岸地域から北西方面に避難した住民は、線量が低い地域から高い地域にあえて向かう結果になった。
活用されなかったのは、放射性物質の拡散を予測する緊急時迅速放射能影響予測ネットワークシステム(SPEEDI)のデータ。予測された線量は正確ではなかったが、高い地域と低い地域がどこかという点では実際の状況をよく反映しており、避難の参考にできたはずだという。
事故調の調べによると、事故対策の拠点施設「オフサイトセンター」に設置された緊急時対策支援システム(ERSS)が、地震による停電で機能が停止。原子炉の状況などを福島第1原発から受信したり、SPEEDIへ送信したりできなかった。保安院や文部科学省は、そうした基本データなしに原発から放出される放射性物質を多めに見積もり試算したが、「予測は正確ではなく、誤解を招く」と危機管理センターに報告しなかった。
原発事故、官邸内で情報分断…避難混乱の一因に
東京電力福島第一原子力発電所事故に関する政府の「事故調査・検証委員会」(畑村洋太郎委員長)の中間報告の概要が明らかになった。
官邸内のコミュニケーション不足や重要情報の公表の遅れなど、政府の情報の収集・伝達・発信に問題があったことを指摘。東電の初期対応では、原子炉の冷却操作で誤認や判断ミスがあったことも明らかにし、批判している。26日に公表される。
大震災発生後、官邸地下の危機管理センターには、各省庁の幹部らによる緊急参集チームが集まった。ところが、当時の菅直人首相ら政府首脳は執務室のある官邸5階に詰めていた。事故調は、政府の事故対応に関する主な決定は、5階にいた一部の省庁幹部や東電幹部の情報や意見のみを参考に行われ、同チームとの連絡も乏しかったとした。
それによる弊害として挙げられるのが、放射性物質拡散予測システム「SPEEDI(スピーディ)」の扱いだ。政府の避難指示を巡っては、官邸5階がスピーディの存在を把握していなかった。事故調は、スピーディのデータがあれば、住民はより適切に避難ができたと指摘。避難に生かされなかった背景に、スピーディの活用に関する責任が、所管する文部科学省と原子力安全委員会との間で曖昧だったことや、官邸5階に同省の幹部がいなかったことを挙げた。
また、政府の避難指示が迅速に伝わらず、自治体が十分な情報を得られないまま、避難方法を決めなければならなかったと指摘した。
政府の情報発信では、炉心溶融や放射線の人体への影響など、重要情報に関する公表の遅れや説明不足があったとし、緊急時の情報発信として不適切だったと総括している。
(2011年12月22日03時06分 読売新聞)
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