ページ

2011/12/16

3月13日、3号機原子炉を冷やすための最後の要が現場の独断で止められ翌日、水素爆発。

福島3号機:現場独断で冷却停止…3月13日、高圧注水系
2011年12月16日 2時39分
 東京電力福島第1原発事故で、3号機の原子炉を冷やすための最後の要となる「高圧注水系(HPCI)」が3月13日に現場の独断で止められ、再起動できなくなっていたことが、政府の事故調査・検証委員会の調べで分かった。3号機は翌日、水素爆発した。1号機でも冷却装置「非常用復水器(IC)」が止まったが、吉田昌郎前所長が稼働していると誤認して事故対応していたこともすでに判明している。指揮系統が機能していなかったことが重大事故につながった可能性がある。今月末に公表される中間報告書に、こうした対応が不適切だったと記載される模様だ。



◇政府事故調、中間報告へ
 東電が今月2日に公表した社内調査中間報告書などによると、3号機では東日本大震災が発生した3月11日、電源が喪失し、「原子炉隔離時冷却系(RCIC)」と呼ばれる別の冷却系が作動、原子炉に注水した。だが、12日午前11時36分には原因不明で停止。原子炉の水位が低下し同日午後0時35分にHPCIが自動起動したが、13日午前2時42分に停止した、としている。

 複数の関係者によると、事故調が経過を調べた結果、運転員がバッテリー切れを恐れ、吉田前所長の判断を仰がずHPCIを止めたことが分かった。その後、HPCI、RCICともに起動を試みたが再開しなかった。報告書は「HPCIを止めない方がよかった」と指摘する見通し。

 一方、報告書は津波対策にも言及するとみられる。東電は08年、想定していた高さ5・7メートルを上回る10メートル超の津波の可能性を試算したが、社内で「防潮堤のかさ上げは費用が高くなる」との意見が出された。当時原子力設備管理部長だった吉田前所長らが「学術的性格の強い試算で、そのような津波はこない」と主張したこともあり、具体的な対応は見送られたという。

 さらに、報告書は法律に基づいて設置された現地本部が十分機能しなかったことや、政府が「炉心溶融(メルトダウン)」を軽微に感じさせる「炉心損傷」と修正した点にも触れる見込み。閣僚の具体的な関与では今月から聴取を始めており、来夏に作成する最終報告書に盛り込む。


◇高圧注水系◇
 非常時に原子炉内に注水するために備えられた緊急炉心冷却装置(ECCS)の一つで、原子炉内の水位が異常に下がった場合に働く。原子炉の余熱で発生する蒸気を利用してタービン駆動のポンプを動かし、復水貯蔵タンクなどの水を勢いよく炉内上部から炉心(核燃料)に注ぎ込む。停電時でもバッテリーで使用できるのが利点。


◇解説…有事の指揮系統、機能せず
 これまで東京電力は「原発事故防止のためにさまざまな取り組みをしてきた」「想定を上回る津波だった」などと主張してきた。しかし、政府の事故調査・検証委員会による関係者聴取から浮かぶのは、「不十分な備え」であり、「人災」という側面すらみえる。

 同委員会の調査で、福島第1原発3号機で「高圧注水系(HPCI)」を運転員が独断で止めたことが判明した。今夏までの調査でも1号機の非常用復水器(IC)の停止を吉田昌郎前所長が把握できていなかったことが判明している。重大事故時の備えがなく、運転員にこのような行動をさせた点こそ問題だ。

 また、東電の過酷事故時の手順書には、全電源喪失が長時間続くことを想定せず、格納容器を守るためのベント(排気)の手順なども盛り込まれていなかった。備えが不十分で現場の指揮系統が混乱し、最善策を取れなかったとうかがわせる。

 過酷事故対策は79年の米スリーマイル島原発事故を契機に、世界的に整備が進んだ。日本でも検討され、原子力安全委員会は92年、事業者に過酷事故対策を求めた。だが、事業者の自主性に委ね、それ以来、対策内容を見直してこなかった。あらゆる警告を謙虚に受け止めることが関係者に求められる。








福島第一3号機、手順書違反し冷却停止か
 東京電力福島第一原子力発電所の事故で、3号機の運転員が3月13日未明、代替注水用の消火ポンプで注水が可能かどうか確認しないまま、緊急冷却装置「高圧注水系」を停止していたことが政府の原発事故調査・検証委員会の調べで分かった。

 停止後、消火ポンプによる注水を試みたが、原子炉圧力が高くて水が入らず、約6時間半、原子炉の冷却ができなかった。同原発の操作手順書に違反する可能性がある。3号機では14日午前11時過ぎに水素爆発が起きており、事故調は今月26日に公表する中間報告で、一連の操作に問題があったと指摘する。

 3号機では3月11日、津波で電源を喪失。直後に作動した緊急冷却装置「原子炉隔離時冷却系」が12日午前11時36分に停止したため、水位が低下し、同午後0時35分に高圧注水系が自動的に起動した。

(2011年12月16日14時37分 読売新聞)




3号機冷却装置停止:東電に資料提出を指示 保安院
 東京電力福島第1原発事故で3号機の冷却装置が現場の独断で止められたとされる問題で、経済産業省原子力安全・保安院は16日、東電に冷却装置の操作実績などの資料を22日までに提出するよう指示した。

 この問題は、政府の事故調査・検証委員会の調べで分かった。保安院は、東電に冷却装置が止まった理由を尋ねていたが、明確な回答がなく、状況を把握していなかった。ほかに、1~3号機の原子炉格納容器の圧力などの実測値が東電の解析と異なる理由についても説明を求めた。【奥山智己】

毎日新聞 2011年12月16日 23時00分