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2011/10/31

オリンパス、買収対象会社の特許権めぐり利益相反の懸念も
2011年 10月 31日 11:05 JST
 [デトロイト/東京 31日 ロイター] 過去の買収資金などの不透明性が指摘されている光学機器メーカー、オリンパスが2008年に日本の調理器具メーカーを買収した際、オリンパス側のアドバイザーとして買収に深く関与していた人物が買収先の特許を保有していた可能性があることが、ロイターの取材でわかった。オリンパスは同社買収も含め、「総合医療メーカーに飛躍するために大きな貢献をしている」(高山修一社長)として買収には問題がなかったとの認識を示しているが、事実であれば利益相反が疑われかねないとの指摘もあり、これについても説明責任を問われそうだ。
 

 オリンパスは08年に、医療関係の産業廃棄物処理の「アルティス(東京都港区)」を約288億円で、電子レンジ用容器企画・販売の「NEWS CHEF(同)」を約214億円で、化粧品・健康食品販売の「ヒューマラボ(同)」を約232億円で買収した。3社の買収は08年4月に完了し、翌年の09年3月末にオリンパスは3社合わせて約556億円(買収価格の約75%)の減損処理を実施した。

 この損失は3社の買収総額734億円の約4分の3に当たる。 これについて、オリンパスは「リーマン・ショックによる外部環境悪化で保守的に減損処理を行った」と説明、すべてのM&Aは適正な手続き・プロセスを経たうえで会計上も適切に処理・実施したと主張している。

 ロイターが入手した資料によると、この3社の買収を仲介したのは、「ヨコオ・アキノブ(横尾昭信)氏」と「ヨコオ・ノブマサ(横尾宣政)氏」の兄弟で、弟の宣政氏はオリンパス傘下のベンチャーキャピタルを管理し、3社総額で約734億円にのぼる買収を実施したとされている。

 米特許商標庁の記録では、2005年に横尾宣政という名の人物が、他の3人とともに電子レンジ用炊飯機器の特許を発明者から取得し、2年後にその特許を東京にあるNews Inc.社に移管している。この会社は、オリンパスが買収したNEWS CHEF社と同じ都内の住所にあった。どちらの会社も現在はその住所にある8階建のビルには入居していない。

 オリンパスは、ロイターの取材に対し、同社のベンチャーキャピタルを指揮していた横尾宣政氏がこの特許保有者と同人物であるかどうか確認を拒否している。帝国データバンクによると、NEWS CHEF社は11年3月期に約6億円の売り上げに対して約22億円の損失を出している。

 この問題について、格付投資情報センター(R&I)の主任格付けアナリスト、石野田雄太氏は、「もし特許の保有者がそうした案件のアドバイザーを務めていたことが事実なら、利益相反という観点から問題になりうるかもしれない」と指摘。「まだ事実かどうかわからないのでコメントは難しいが、会社として望ましいのは情報を公開し、こうした指摘に答え、投資家を納得させることだろう」と語る。

 米国の企業統治問題の専門家であるデラウェア大学のチャールズ・エルソン教授も、もしオリンパス側の資金担当者が買収先企業に何らかの個人的利害をもっていたとすれば、問題になるだろうとの見方だ。「米国では一般に、企業とその幹部社員(officer)との間の取引を、禁止していはいないが、厳しく規制している。今回のケースが問題になるかどうかは状況次第。個人的利害がなければ、問題にはならない」と語る。

 特許保有者の宣政氏がその移管を通じて何らかの利益を得ていたかどうかは不明だ。ロイターが米特許庁から得た同氏の東京の住所を尋ねたところ、入り口に「横尾」姓の表札はかかっていたが、中にいた女性が1回だけ顔を出したあとは誰とも接触できなかった。
 
 一方、兄の昭信氏は05年から09年までオリンパス幹部の職にあり、その期間は同社のベンチャーキャピタルがNEWS CHEFに投資をしていた時期と重なっている。同氏は都内にある3階建ての自宅を訪れたロイター記者に対し、利益相反の可能性を強く否定。「弟と一緒に仕事をしたのは、たった1回。昔のオリンパスの工場用地で農業関連のプロジェクトをした時だけだ」と語った。

 オリンパスの09年の監査報告は、同社経営陣による違法行為や重大な過失を否定するとともに、昭信氏による利益相反の可能性も検証した。その結論として、同氏がその資金に関連して個人的利益を得ようとしたことを示唆する状況は見られなかった、としている。