(8月27日 朝刊)
キノコ狩りの季節。県内で人気の高いチチタケ(チタケ)などが旬を迎えている。だがことしは東京電力福島第1原発事故による放射能の影響が懸念され、二の足を踏んでいる人も多いだろう。キノコは全般的に放射性セシウムを濃縮しやすいとされている。ただキノコの種類や成育する場所によって受ける影響の度合いが大きく異なる上、野生キノコは事故後の測定データがまだない。専門家は「情報がそろうまで、野生キノコばかり食べるのは控えた方がいい」と慎重な対応を求めている。
「チタケを採りにいきたいが、食べても大丈夫か」
県には原発事故発生後、野生キノコの放射能の影響について問い合わせの電話が6件(23日現在)寄せられた。県は、放射性物質の測定で野生キノコにまで手が回らないため、安全かどうかの判断を示していない。担当者は「福島県などの原木から栽培シイタケに放射性物質がどれくらい移行するか、国が調査している。結果が出れば、野生キノコの目安になると思う」と話した。
「キノコと放射性セシウム」の関係性について、国内で広範囲に調査されたのは約20年前。野生キノコ中心に非食用キノコも含めた全国各地の124種(284試料)を分析した放射線医学総合研究所(千葉市)の吉田聡放射線防護研究センター運営企画ユニット長によると、日本のキノコの放射性セシウム濃度は、1950~60年代を中心に行われた大気核実験の影響が大きく、同じ場所に成育する植物に比べて明らかに高かったという。
分析によると放射性セシウムの濃度は、乾燥させたキノコで1キログラム当たり3ベクレル以下(検出限界以下)~1万6300ベクレルと試料によって大きく異なった。この数値を生のキノコに換算すると濃度は約10分の1になる。樹木などの根に共生するハツタケ、チタケといった菌根菌は、枯れ葉や枯れ木を腐らせて栄養をとるシイタケなど腐生菌とくらべて濃度が高い傾向にあった。
ただ森林土壌中の放射性セシウムの分布は場所と深さによって非常に不均一で、菌糸の位置によって個体ごとの濃度が大きく左右される。吉田さんは「(原発事故後)場所によっては野生キノコ中の濃度が上昇する可能性がある」と指摘。「情報がある程度そろうまでは、野生キノコばかり食べ続けるのは控えた方がよい」と助言した。
一方、県きのこ同好会は、山歩きは差し支えないとして28日、例年通り観察会を行う予定だ。同会長で宇都宮大農学部名誉教授の出井利長さん(78)は「会員間で、ことしは野生のキノコを食べるのは避けた方がよいとの意見も出た。データがないだけに、最後は各人の判断に任せたい」と苦しい胸の内を話した。