今回の大津波を予測していた研究者がいます。震災の発生から1か月。現地での調査に乗り出した研究者の胸にあるのは、「次こそ防災に役立ちたい」という思いです。
自衛隊が行方不明者の集中捜索を進めたこの週末。被災地で黙々と測量に取り組む男性がいました。過去の地震と津波を研究している宍倉正展博士です。
「津波が何も残らず全て持ち去ってしまった威力といいますか、自然のすさまじさを感じた」(産業技術総合研究所 宍倉正展博士)
実は宍倉さん、「想定外だった」とされている今回の大津波の到来を予測していました。
「経過時間から考えたら、いつ起きてもおかしくない状況」(産業技術総合研究所 宍倉正展博士)
過去の地震と津波を専門とする宍倉博士は、これまで西暦869年に宮城県沿岸を襲った「貞観津波」という大津波を研究してきました。その記録は、江戸幕府の将軍の書庫にあった「三代実録」という本に残っています。
「陸奥の国で地面が大きく揺れた。海では獣の吼えるような音が聞こえ、大津波が陸地を襲った」(三代実録より)
その「貞観津波」のシミュレーション。今回の大津波と驚くほど似ています。宍倉さんは、この「貞観津波」と同じ規模の津波が500~1000年に一度、発生していることを突き止めていました。そして、「いつ起きてもおかしくない」と警鐘を鳴らし始めた矢先に大震災が起きました。
「非常に残念で、非常に悔しい」(産業技術総合研究所 宍倉正展博士)
大震災発生から1か月・・・宍倉さんたちは悔しさを胸に、今回の津波の調査を開始しました。宍倉さんたちが目を皿のようにして探しているのは、泥の下に隠れる「砂」。いったい何がわかるというのでしょうか?
「普段、地層で見ている津波で運ばれたと思われる砂が、実際にどこまで来ているのか」(産業技術総合研究所 宍倉正展博士)
陸地を襲った津波の濁流は、比重が重たい砂、泥、そして水の順で陸地の奥まで進んで行きます。実は、日本各地の地層で大昔の巨大津波で運ばれた砂が見つかっていますが・・・痕跡が残らないだけに、水はどこまで到達したかがわかりませんでした。しかし、今回の調査で、砂と水が到達した場所が例えば100メートル離れていたことが明らかになれば、同じ規模の巨大津波でも、砂と水の到達地点は100メートル離れると推測できます。この結果を応用することで、過去の巨大津波がどこまで到達したかわかる可能性があるといいます。
「日本列島の他の巨大津波が起こりうるような所で、適用していったら役に立つのではないかと」(産業技術総合研究所 宍倉正展博士)
砂粒が静かに語るものに耳を傾ける宍倉さん。胸にあるのは、「大津波が来る」という予測を伝えきれないまま被災した人たちのこんな声です。
「全然、何も備えなしという状況で(津波が)来たものですからねえ。その辺が分かっていれば、なんらかの処置はしたのですけれど」(被災者)
「二度と同じ轍を踏まないようにしないといけない」(産業技術総合研究所 宍倉正展博士)
(13日23:21)
2011/04/13
宍倉さんは、この「貞観津波」と同じ規模の津波が500~1000年に一度、発生していることを突き止めていました。
大津波予測した研究者「次こそは役に…」