2011.04.08
史上最悪といわれるチェルノブイリ原発事故(レベル7)で、米共同調査チームの代表を務めたジョージア大学のチャム・ダラス教授が緊急来日し、夕刊フジの単独インタビューに応じた。ダラス教授は、東京電力福島第1原発事故について、「チェルノブイリより軽いが、今後、ひどくなる可能性はある」と分析。日本政府の発表については、「米国が持っているデータや見解と違う。科学的にきちんと測定して公開すべきだ」と苦言を呈した。
――第1原発の事故について、日本政府は「米スリーマイル島原発事故(レベル5)と同等」としているが、教授の評価は?
「日本政府は、がっかりするようなデータや見解しか発表していない。私はIAEA(国際原子力機関)やNRC(米原子力規制委員会)のリポートを信じる。特に、大きくデータが異なる原子炉がある」
――日本政府は事実を公表していないのか
「私としてはNRCの見解を疑う理由はない。燃料棒が水につかっていなかったり、プルトニウムが保護されていないとすれば危険だ」
《東京電力は6日、第1原発の敷地内4カ所で微量のプルトニウムを検出したと発表した。敷地内では別の場所で採取した土壌からもプルトニウムが見つかっている》
――国民も政府発表に疑問を持ち始めている
「緊急時こそ、正しい情報を定期的に、普通の人が理解できる言葉で伝えなければならない。政府と国民の信頼関係、意思の疎通が重要だ」
――チェルノブイリでは主な放射性物質の流出は約10日で止まった。第1原発では事故から1カ月たつが、まだ流出や放出が続いている
「チェルノブイリでは多数の犠牲者が出た。事故から2、3年で約1000人が亡くなっているが、旧ソ連はその数分の一しか公表していない。約1万人ががんになり、現場で作業した人には二十数年間、子供が生まれていない」
――第1原発もそうなるのか
「いや、現時点ではチェルノブイリより軽い。チェルノブイリでは火が出た。第1原発でも出たが短時間だった。ここが違う。ただ、大きな余震も続いている。ひどくなる可能性もある」
――子供の件はどうか
「日本も、原発周辺では同様ではないか」
――第1原発の作業員は相当過酷なようだ。政府は事故後、作業員の許容被曝量を100ミリシーベルトから250ミリシーベルトに上げた
「2倍にする科学的根拠はない。作業員を確保するためだろう。よくないことだ」
――一部報道では「限度量を超えて作業している者もいる」という
「そういう情報があるなら、きちんと調べなければならない。今後、作業員が体調を崩さないかモニターしていくべきだ」
――日本政府は現在、原発から20キロ圏内を避難指示とし、20キロから30キロ圏内を屋内退避としている。これで大丈夫か?
「科学的測定をして、避難区域を決めるべき。先週、米軍が測定している。近々、結果と判断を日本政府に伝えるはず。避難区域は同心円である必要はない。地形や風向きによって違う。チェルノブイリでも、安全な場所と危険な場所が隣り合っていた。測定データに基づき判断すべきだ」
《米国は自国民を第1原発から50マイル(約80キロ)圏内から退避させている》
――原発周辺の農作物はどうか
「これも測定データに基づくべきだ。私はチェルノブイリの農作物に関するリポートを書いたが、チェルノブイリで採れた野菜を食べた、遠い地域に住む子供たちが甲状腺がんになっていた」
――放射線物質を含む汚染水が太平洋に放出されている
「私は約20年間、海中(水中)での放射線の動きも研究している。結果、99%は海の底に沈んだ。傾向として海の底にいる魚ほど放射性物質を帯びやすい。これも、きちんと測定して、公開すべきだ」
――来日中、寿司を食べるか?
「日本の寿司は大好きだが、測定して『放射性物質を含んでいない』という結果が出なければ食べたくない」
――日本政府は、放射性物質を止めるメドを「数カ月」としている。東京は安全なのか?
「たぶん、止めるのに1年ぐらいはかかるのではないか。だが、現在の原発の状況ならば、東京は安全だろう。子供がいても大丈夫だ」
■毒物学、生物学専門の科学者
【Cham Dallas】 1953年、米テキサス生まれ。テキサス大卒。毒物学、生物学を専門とする科学者。ジョージア大学教授で、大量破壊防衛研究所所長。86年のチェルノブイリ原発事故から3年後の89年から99年まで、米政府とジョージア大の現地共同調査チームを率いた。米CBSのニュース解説員も務める。今回は、米医師会の医療災害サポートチーム団長として来日した。