2011年4月11日23時58分
福島第一原発から20キロ圏外に避難区域を広げることを発表した菅政権は、福島県南相馬市と川俣町について、具体的にどの地域が避難地域になるのかという、住民が最も知りたい情報を示さなかった。「生煮え」の発表に、地元からは不満の声が相次いでいる。
枝野幸男官房長官は会見で、新たに「計画的避難区域」に指定する5市町村を読み上げた。だが、南相馬市と川俣町についてはその中の「一部」が対象となると述べただけで、地名などの具体的な区割りは示さず、肝心の避難先についても「国として汗をかかせていただく」と述べるのみだった。
原発から20~30キロ圏内に新たに設定する「緊急時避難準備区域」にいわき市が含まれるかどうかは、言及すらなかった。枝野氏は会見後、記者団に指摘されて初めて、30キロ圏内のいわき市に出ていた屋内退避指示が近く解除される見通しだと明かした。
政権が避難区域の拡大を急いだのは、原発事故から1カ月、累積の放射線量が年間20ミリシーベルトを上回る地域が出始めていたからだ。菅政権は、震災発生後1カ月となる11日をメドに、避難範囲を拡大する方向で調整に入り、福山哲郎官房副長官が10日にひそかに福島県入りして政府の意向を説明して回った。ところが、自治体側は「対象が広すぎる」(古川道郎・川俣町長)などと、相次いで難色を示した。
官邸内部には混乱を避けるため、地元の同意を得た上で公表すべきだという意見も出た。だが、菅首相が早期公表にこだわったため、地元の同意取り付けを得ないまま、概要を発表することにしたという。
政府の発表直後、南相馬市の市役所には、詳しい区域割りを尋ねる電話が殺到した。「私たちも詳細は聞かされていない」。ある市職員は困惑した表情を浮かべた。人口約7万人の南相馬市は原発事故で市域が三分された。避難指示の20キロ圏、屋内退避指示の20~30キロ圏内、指示や要請のない30キロ圏外だ。避難地域が拡大されると、市域が四つに分かれる可能性もある。星義弘・総務企画部長は「明日も問い合わせが殺到するだろうが、答えようがない」と頭を抱えた。
飯舘村は、国が示す「おおむね1カ月での避難」は難しいとの認識を国に伝えているという。菅野典雄村長は「今後の避難先も決まっていない」と困惑する。村幹部は「まずは避難区域を広く取り、時間の経過とともに狭めていくのが筋。拡大していくようでは住民の不安が広がるばかりだ」と国への不信をあらわにした。
一方、市内の一部を対象とした屋内退避指示が解除される見通しとなったいわき市。渡辺敬夫市長は11日夜、対象となっている住民5800人に「自主避難の指定の解除を知らせる」と表明した。事故以来、同市の放射線量の数値は低い状態が続いたといい「(指定解除の)判断が遅い」と指摘。そのうえで「これで風評被害が振り払える一助になれば」と話した。
政府の全村避難方針に飯舘村民「突然」「もっと早く」不信と戸惑い
2011.4.11 13:41
「突然すぎる」「もっと早く決断できなかったのか」。政府が11日、避難指示区域の拡大に備え、計画的に住民全員を避難させるよう要請した福島県飯舘村。住民の間には、政府や村に対する不信感と戸惑いが広がった。
この日の枝野幸男官房長官の記者会見に合わせ、飯舘村では村議会の特別委員会が開かれ、菅野典雄村長は政府からの「計画的避難区域設置」について議員や村民に説明した。
「国には地域ごとに分けるなどして、数値の高い地域の人は移動させ、低い地域の人は残ることはできないのかなどと提言してきたが、残念ながら難しい」
菅野村長は理解を求めたが、議員らから「突然すぎる」などと反発の声も。農家の男性(27)は「村と国のこれまでの話し合いについて説明もなく『急に逃げろ』とはどういうことか。村はなぜもっと早く決断しなかったのか」と話した。