東日本大震災を受けた14日の「復興構想会議」初会合で、原発問題を議題とするか否かをめぐり、委員が対立する場面があった。福島第1原発事故の被害復興に絞る政府方針に「文明論」の観点から扱うべきだとの異論が続出、結局、議論の対象とすることになった。
議長の五百旗頭真防衛大学校長は冒頭、「原発事故は危機管理的な状況にあり、任務から外すよう(菅直人首相から)指示されている」と表明した。
しかし、委員の赤坂憲雄福島県立博物館長は「文明的な問題として、原発の問題を抜きにしては前に進めない」と主張。さらに特別顧問で哲学者の梅原猛氏も「原発で生活が豊かになったが、その文明が裁かれている。この裁きに対してどう答えを出すか」と訴えた。
五百旗頭氏は会議後の記者会見で「原発の技術的な問題を議論することはできないが、原発を含む複合災害として国民全体で考える姿勢が大事だ」と“軌道修正”した。(共同通信)
2011/04/14 21:14
東日本大震災:復興構想会議、初会合 原発除外に異論噴出 首相思惑とずれ
◇政権運営への疑念も
「全国民の英知を結集する」として菅直人首相が発足させた東日本大震災復興構想会議(議長・五百旗頭真防衛大学校長)の議論が14日始まった。6月末をめどに第1次提言をまとめることは確認したが、首相が議論の対象から原発問題を外すよう指示したのに対し梅原猛特別顧問らから異論が噴出。震災発生後の本部・会議の乱立や政治主導の政権運営に疑念を呈する発言も相次ぎ、復興ビジョンの具体化に不安を残すスタートとなった。【小山由宇】
「原発問題を考えずに、この復興会議は意味がない」
以前から原発の危険性を唱えてきた梅原氏は会議の終了後、記者団にこう言い切った。東京電力福島第1原発事故は収束の見通しが立たず、成果を急ぐ首相にとって賛否の割れる原発問題は避けたかったとみられる。しかし、福島県の佐藤雄平知事も「原子力災害も共有していただきたい。安全で安心でない原子力発電所はありえない」と提起。委員側とのずれが表面化した。
秋田県出身の内館牧子氏は対策本部や会議の乱立に「復興構想会議もその中の一つと国民に思われたら、東北がつぶれる」と苦言。府省や自治体との連携不足が目立つ菅政権に「官僚と県や市が一体となってやることがまず第一」と注文した。
初会合で政権に批判的な発言が相次いだ背景には、復興の実施態勢がいまだに見えないことへの懸念がある。政府内では今月中の国会提出を目指す復興基本法案に全閣僚で構成する「復興本部」(仮称)の設置を盛り込む方向で検討。これに加え、首相は13日、国民新党の亀井静香代表から与野党の幹部が参加する「復興実施本部」の設置を進言され、同意した。議論の場が乱立する一方で、野党との調整は進んでおらず、復興構想会議の提言先が定まらない異常な状況だ。
会議のメンバーには、外務官僚出身の達増拓也岩手県知事を除き、官僚OBはいない。五百旗頭氏は会見で、会議の下に設置する検討部会(部会長・飯尾潤政策研究大学院大教授)で官僚の協力を求める方針を説明。戦前の政党対立にも触れ「あそこで国民に本当に必要なことをやっていれば悲惨な歴史を踏まなくてよかった」と与野党結束を訴えた。
だが、自民党の谷垣禎一総裁は「国民は菅政権に復興のかじ取りを委ねることはできない。首相自ら出処進退について判断する時期に来ている」と首相退陣に言及。与野党対立は逆に深まっている。
毎日新聞 2011年4月15日 東京朝刊
委員の会議後の発言=復興構想会議
東日本大震災復興構想会議の終了後、各委員が記者団に語った内容は次の通り。
赤坂憲雄学習院大教授 岩手と宮城は復興にかじを切っているが、福島は原発の問題の収束が見えず非常に苦しんでいる。原発の問題は並行してやらなければならない。福島の大地がよみがえり、人々が戻ってきたときが復興の終わりだ。
脚本家の内館牧子氏 単に便利で効率がよい万博会場みたいな街にはしてはならない。東北が真に持っているものは守らないといけない。東北なのか、どこなのか分からなくなれば人は愛さなくなり、ふるさとを失ってしまう。
河田恵昭関西大教授 阪神・淡路大震災の復興など、これまでの事例の問題を明らかにして新しい街づくりをしなければならない。一番大事なのは「食べていける」ということ。水産業も新しく集約して大きくしないといけない。
作家の玄侑宗久氏 震災後の復興を何年かかけて専門的に担う、臨時政府のような組織を現地につくるべきだ。場所は仙台でもいい。国全体は日常に返らなければならないが、被災者をきちんとみている組織が現地にあると心強い。
佐藤雄平福島県知事 原子力災害が続いているから復旧・復興まで割り切っていけない。歯がゆい感じだ。それでも私どもは新生福島をつくろうという(県独自の)プロジェクトチームをつくった。(構想会議の)検討部会に霞が関の実務派(官僚)をぜひ入れたらどうだろうかと提案した。
村井嘉浩宮城県知事 東北が引き続き日本の食料基地であり続けるため、規模を集約化し、水産業、農業が永続できるようにしていただきたい、という話をした。後継者不足が顕著になっているので、また農業、水産業に戻れるような仕組みづくりを国を挙げてやるべきだ。いつまた大きな津波が来るかも分からないので、住まいと仕事の場は別々にすべきだ。
哲学者の梅原猛氏(特別顧問) 原発問題を考えずにこの会議は意味がない。近代文明は原発を前提としており、文明そのものが問われている。私は原発を廃止した方がいいと考えているが、(原発容認派と)双方の意見を聞くべきだ。
(2011/04/14-21:45)
http://www.jiji.com/jc/zc?k=201104/2011041400908