2011年4月8日15時1分
福島第一原発の事故を受けて住民に避難指示などが出されている区域で、空き巣や店舗荒らしなどの犯罪が続いていることが福島県警への取材でわかった。避難者からの要望を受け、県警は3月29日に30人態勢の防犯チームを結成し、原発の半径10~30キロ圏でパトロールを続けている。
県警によると、屋内退避が指示されている20~30キロ圏の住民から、コンビニエンスストアの商品や民家の金品などが盗まれたと複数の被害届が出ている。避難を続ける住民が被害に気付かないケースもあるとみられ、県警は「全体像は把握できていない」としている。
避難指示が出ている20キロ圏内の楢葉町から避難した男性は震災の約1週間後に自宅に帰り、窓ガラスが割られてタンスや机などの引き出しが物色された跡を見つけた。滞在時間が短く被害品を確認できなかったため、県警には届けていないという。男性は「避難所で、複数の住民から被害を受けたとの話を聞いた。国は避難地域の治安を守ってほしい」と訴える。
浪江町の自宅を離れて避難生活を送る30代の男性は2日昼に一時帰宅した際、避難指示圏にある量販店の出入り口のガラスが割られているのを見たという。
屋内退避圏の浪江町津島に住む60代女性も「隣の家から灯油入りのポリタンク七つが盗まれた。地震や原発事故で困っている時期に、ひどい」と嘆く。同じく20~30キロ圏の南相馬市の実家に避難する女性(25)も「近所の空き家が何軒か泥棒に入られ、テレビなどが盗まれた」と話す。
この女性はより遠方への避難も考えたが、事故の影響で人通りが少なく、空き巣被害への不安もあって思いとどまっているという。
県警は10~30キロ圏で行方不明者を捜索するとともにパトロールを続けている。しかし、10キロ圏内では具体的な情報がない限り、十分な活動ができていないのが実情という。
20キロ圏内を見回る自衛隊も、活動途中で出会った人に必ず声をかけて警戒するようにしているという。ある隊員は「建物の一部が崩れている民家もあり、侵入は難しくないだろう。警戒を強めたい」と話した。
コンビニ略奪、“野良馬”も…原発20キロ圏内“警戒区域”ルポ
2011.04.08
福島第1原発から半径20キロ圏内に、フリーライターのA氏が潜入した。政府は、現行の避難指示をより厳しく立ち入りを禁止する「警戒区域」に、30キロ圏内の一部地域も「避難指示」を出す調整に入っている。いまや、ここは当局も特段の事情なしに立ち入らない“失われた国土”だ。取り残されていたのは、略奪された建物と主を失った動物たち、覚悟を決めた人々だった。A氏が緊急ルポした。
「この先 立入禁止『避難指示』発令中」。福島県南相馬市の中心部を出発して市内の小高地区へ向かおうと国道6号を車で移動中、立て看板と規制線が目に入った。検問をする警察官の姿はどこにも見当たらず、脇道は規制されていないので、さらに進める。
小高地区は福島第1原発から16キロほど。中心部に入るまでに、2台の車とすれ違った。乗っていたのはいずれも防護服に特殊マスクをした事故対応の関係者と思われる人たちだが、こちらを気にする様子はなかった。
中心部に入ると、まるでゴーストタウンだった。商店街はシャッターを下ろしたまま。警察官も自衛隊員もいない。津波で被害を受けたわけではないので、電気は通っている。通る車もない道路で信号が青、黄、赤と点滅するのは不気味だ。
中心部から海岸に近い集落に向かうと、マスクもせずがれきを片づけている男性を見つけた。独り暮らしで身寄りもなく、自宅に残り続けているという68歳の男性は、「逃げようにもどこにも行くところもねえ。長年住んだここを離れるつもりはない」と話した。
放射能が心配でないのかと聞くと、「年だから、もうどうなってもいい」と吐き捨てるかのように言った。物資は届かないため、食事は冷蔵庫に残っていたものを食べているほか、近所の店の商品を「使わせてもらっている」という。
避難したが、再び小高地区に戻ってきた人も少なくない。60歳代の夫婦は、福島第1原発の3号機で爆発が起きた3月15日、山形県内に住む親類のもとに避難した。着の身着のままで逃げだしたが、3週間近くがたち、気になって自宅の様子を見に戻ってきたという。
夫は「真っ黒なカーテンで突然、視界を覆われたようだ。早く政府に方向性を示してほしい」と先行き不安を訴えた。
また、市街地ではたくさんの犬がさまよっていた。首輪をつけ、やせている。飼い主が避難するときに放置したのだろうか。記者の車を見ると走り寄ってきた。昼食のために買っておいたパンを与えると、次々に数頭の犬が集まってきた。
飼い主から放置されたのは犬だけではない。馬が道路わきで草をはんでいるのを見つけた。この地区は国の重要無形民俗文化財となっている伝統行事「相馬野馬追」に出場する馬を飼育する農家が多い。放たれたままになのに、近づいても人を恐れる様子はない。
海岸から2キロほどの国道6号沿いでは、津波で被害を受けたコンビニを見つけた。窓ガラスは割れ店内に大量の土砂が流れ込んでいた。電気もなく薄暗い店内をのぞきこむと、土砂には人の足跡がたくさんついている。
レジが開け放たれ、店内のATMが破壊されて現金が持ち出されていた。放置された車からガソリンを抜いた形跡も多く見られた。工具で給油口のフタをこじ開けたのか、フタの周りにキズがついた車ばかりだ。
建物は残り、インフラはあるのに、人が住めないゴーストタウンへと化しつつある小高地区。これは“人災”以外のなにものでもない。