東京電力の福島第一原子力発電所1号機が、原子炉建屋の爆発や放射性物質の飛散を起こす事態となり、東京電力や政府の説明が後手に回っていることに批判の声も出始めている。
今後、地元住民らへの説明が十分に果たされなければ、東京電力の経営陣の責任を問う声が高まる可能性もある。
今回の地震と津波は東京電力の想定を上回っていたとみられるが、福島第一原発の1号機は東京電力で最も古い原子炉で、運転開始から40年を経て老朽化も進んでいた。原発は安全性の確保が最重要なだけに、事前の想定や安全対策が十分だったかどうかの検証も求められるのは必至だ。
一方、福島第一原発全体の発電能力は約470万キロ・ワットと、東電全体の発電能力の1割弱を占めている。この巨大原発の代替施設を早期に求めることは難しい。東京電力が計画していた原発の新設計画の見直しを迫られる可能性もある。
(2011年3月12日22時44分 読売新聞)
政府、後手の対応 首相視察が混乱拡大との見方も
2011.3.12 23:21
菅直人首相は12日夜、福島第1原発について「一人の住民も健康被害にならないよう全力で取り組む」と強調した。ただ、原発で爆発が起きたことで、政府の危機管理能力が問われることになった。「最悪の事態を想定」(枝野幸男官房長官)してきたはずなのに、退避指示の範囲を徐々に広げた。爆発の事実を発表したのも発生から2時間以上たってからで、官邸の混乱ぶりがうかがえた。
しかも首相が12日朝現地を訪れ、1時間近く視察したことは現場の作業を遅らせる一因になったとの指摘もあり、責任を問われかねない。
「国民の安全を第一に考えて対策を取ってきた。周辺住民が健康被害に陥らないよう全力を挙げたい」
12日夜の会見で、首相は原発への対応をこう強調した。ただ、爆発とは言わず「新たな事態」と形容するにとどまった。
首相は12日午後の与野党党首会談で原発に関し「危機的な状況にはならない」と強調していた。会談中に官邸側は「会談後、首相と官房長官の会見を行う」と発表した。爆発が起きたのは会談の最中だった。
会談終了から1時間半以上たって単独で会見した枝野氏は首相が会見をいったんキャンセルした理由について「首相は、メディアを通じてメッセージを伝えるのは大変重要だと思っていたが、それ以上にこの事象(爆発)にしっかりと対応することが重要だとなった」と釈明した。
12日朝、首相は原発視察に先立ち、記者団に「現地で責任者ときっちりと話をして、状況を把握したい。必要な判断は場合によっては現地で行うかもしれない」と意気込みを語った。
政府関係者によると視察は首相が突然言いだした。枝野氏も12日未明の会見で「陣頭指揮を執らねばならないという強い思いが首相にあった」と説明した。
しかし、現場はすでに放射性物質の一部放出をしなければならない事態に陥っていた。そこに首相がヘリコプターから降り立ったため、現場担当者も首相の対応に追われた。
退避指示も当初「風向きなどを考えて」として3キロから始まり10キロ、20キロと範囲を広げた。枝野氏は「専門家が詳細な分析をしているので、周辺住民は落ち着いて対応してほしい」と言いながら、退避指示の拡大などのメディアへの情報提供が遅いことには「間違いのない情報を伝えないといけないから」と強弁した。