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2011/03/20

「20キロや30キロの根拠を明確に示すものはない。混乱が発生しないように、さまざまなことを総合的に考慮して導き出した政治判断だ」

原発事故 「避難20キロ、屋内退避30キロ」指示の根拠は?
2011.3.20 15:19
■ 最悪想定 妥当な判断 スリーマイルは16キロ

 福島第1原発から放射性物質が漏れている問題で、政府は原発から半径20キロ圏内の住民に「避難指示」を出し、20~30キロの住民に「屋内退避指示」を出している。この範囲はどういった根拠で決められたのだろうか。

 原子力安全委員会が作成した「原子力防災指針」では、原子力発電所から約8~10キロの範囲を「防災対策を重点的に充実すべき地域」として指定。さらに10~50ミリシーベルトの放射線を浴びる可能性がある場合は「屋内退避」、50ミリシーベルト以上で「避難」することを呼びかけている。健康被害が出るとされる放射線量は100ミリシーベルトだ。

 各自治体もこの指針を基に防災計画を作成。福島県もこの指針を基に第1原発と第2原発から半径10キロの範囲を重点地区とし、避難所もこの外に指定していた。11日の地震発生直後、第1原発から3キロ圏内を避難させ、10キロ圏内に屋内退避指示が出たのもこのためだ。

 しかし、事態は想定より深刻だった。翌12日に第1原発1号機で水素爆発が起きて計測値が急上昇すると、避難地域は20キロに拡大。15日には20~30キロの住民に屋内退避指示が出された。

 経済産業省原子力安全・保安院は「予想をはるかに超える事態が起きており、20キロや30キロの根拠を明確に示すものはない。混乱が発生しないように、さまざまなことを総合的に考慮して導き出した政治判断だ」と話す。



 一方で、米政府は17日、日本政府よりも広範囲となる半径50マイル(約80キロ)以内の米国人に避難を勧告した。これについて、東京大の野村貴美特任准教授(放射線化学)は「海外からは国内の状況が正確に分からないので、慎重になっているのではないか。神経質になる必要はない」とした上で、「旧ソ連のチェルノブイリ原発事故ですら避難範囲は30キロ。政府が30キロまで屋内退避指示を出したのは、最悪の事態を想定したもので、妥当な判断だ」と話している。

 過去の原発事故では、1979(昭和54)年の米スリーマイル島の原発事故で半径10マイル(約16キロ)の住民が避難。茨城県東海村の臨界事故では半径350メートルで避難、10キロに屋内退避指示が出されている。




【用語解説】 シーベルト 放射線を浴びた際の人体への影響を示す単位。放射線は、ガンマ線などさまざまな種類を含んでいるが、種類別で人体への影響度が異なる。それらを一括した尺度で観測するため、比重計算されている。自然界にも放射線があり、日常生活では年間約2・4ミリシーベルト、1時間あたりで0・274マイクロシーベルトの放射線を浴びている。1ミリシーベルト=1000マイクロシーベルト。放射線測定器などの開発に携わり、放射線の影響を防護する研究で功績を残したスウェーデンの物理学者ロルフ・マキシミリアン・シーベルト(1896~1966)から名付けられた。